02 2話 到着、ポケパーク
8月5日、世間一般の学生達は夏休みの真っ只中だ。
明日からオープンされるポケパークに祖父から招待されたイブとラキは荷造りをしている。
「シンオウからジョウトに行くのか……。おい、カメラ持ったか?」
中学三年生で受験を控えた兄のラキが尋ねる。
「兄ちゃんこそ、パジャマとか持ったの?」
小学四年生の弟、イブがカバンの底からカメラを取り出して見せる。
「父さんと母さん、来られなくて残念だな」
「まあ、楽しんで来なさい。滅多に無い機会なんだから」
彼らの祖父が手紙にフリーパスとジョウト行きのチケットをつけて送ってくれたのだ。
「ほらイブ、行くぞ」
玄関で靴を履いてタクシーを呼ぶ。数分後、真っ黒いタクシーが家の前にやって来た。
「キッサキシティの乗船所までお願いします」
先払いで代金を受け取った運転手が頷く。ラキとイブを乗せたバスは、極寒のキッサキへと走り出した。
「……ポケモンってどんな生き物なんだろうね」
「さあな、でもネットには火を吹いたり電気を飛ばしたりしてくるらしいぜ」
イブの質問に対してスマホをいじりながら答える。
実を言うと、ラキはイブのことをあまり好きではないのだ。
というのも成長するにつれてよく喋るようになり、煩さが増すからだ。
ラキが溜息をついてから2時間ほどすると、辺りに雪がちらつき、町が見えてきた。
乗船場で降ろしてもらい、チケットを見せて船に乗る。
「……気持ち悪い……」
青白い顔をしたイブが呟いた。
「吐けば?」
素っ気なく返すと、イブは口元を押さえてトイレに駆け込んだ。
ラキは遠い海の向こうに見える大陸をただただ眺め続けた。
正午近くになると、カントー地方のグレンタウンを通り過ぎた。
さらに進んで午後1時半。漸くアサギシティの乗船場に着いた。
ずっとトイレで吐き続けていたイブを引っ張り出してアサギシティに立つ。
ラキはまだ気持ち悪いと言うイブに仕方なしに水を買い与える。
少しずつ飲むと幾分か落ち着き、顔色も戻ってきた。
待合室に行くと、黒いセーターとジーンズを着用した老人が座っている。
「じいちゃん!」
「おじいちゃん!」
同時に叫び、祖父のもとへ走る。
二人に気づいた老人はニコニコと手を振った。
スリムな肉体に優しい目。白髪に白髭、それと杖を手にしている。
「おうおう、よく来たな」
「セウスおじいちゃん! ポケモンって、どんな奴らなの!?」
先刻の吐き気は吹き飛び、鼻息を荒くして問い詰める。
「ポケモンはな、かわいい奴もいるしかっこいい奴もいる。でもな、ちと危なっかしいんじゃよ。電気とか火とか吹くからの」
クックッと笑ったセウスは二人を自家用のヘリコプターに乗せた。
「最近はな、伝承に残っているルギアというポケモンを復活させたのじゃ」
「ルギア?」
「そう、嵐の中に現れた、という伝説を持つポケモンじゃ。じゃが、実際おとなしい奴じゃよ。どうやら林檎と梨が好きみたいでの」
セウスはスマホで撮った写真を二人に見せた。
白を基調としたボディに青い棘のようなものが背に生えている。
「ただ、限られた人間にしかなつかなくてな。ワシとミウとルリオにしかなついてないんじゃ」
「すっげー、ばあちゃんとじいちゃんになついてるのかー!」
イブ同様、ラキも目を輝かせて興奮している。
「ほら、見えてきたぞ」
セウスが指した先には、様々な施設が見えた。巨大な檻に、レストラン、研究室や管理塔。
全部が全部、ラキとイブが初めて見るものばかりだった。
「ようこそ、ポケパークへ。老若男女、誰だろうと楽しめる夢の場所へ!」
セウスが宣伝でも言われている文句を歌った。
ヘリは、管理塔に着陸し、倉庫へと戻っていった。
ポケモン達の鳴き声が彼らの耳に一斉に届いた。
二人を歓迎するかのように。