初恋は泡沫の夢
後編
「よう、久しぶりだなロコン」
 星の砂から発せられた光に目が眩み、屋上に戻されてしまった。
 そして、たった今、私に挨拶をしたのは──イーブイだった。
 よーく見ると、体は半透明で微妙に浮いている。
「な、何で君が?」
「さぁ? 俺もよくわかんねぇ。お前、すげえ窶れてんだな」
「あ、あぁ……。最近寝不足でね……」
「嘘つけ。虐められてんだろ?」
「な、何でしって──」
 彼は私の言葉を遮って、「全部見てたからな」と答えた。
「……君は……幽霊なの?」
「さぁな。ま、こうやっても触れないなら、幽霊なんだろうな」
 イーブイは私の頭に手を置こうとしたが、するりと抜けてしまった。
「私も……そっちに行けば、君に触れるかな?」
「はぁ? 何言ってんだよ。自殺なんか俺がさせねーぞ」
「できるよ。君は今、私には触れることができない。だから、ね」
「虐められたこと気にしてんのか?」
 単刀直入に訊いてくるイーブイ。デリカシーが無いというか何とかいうか……。
「校長とかに言やぁいいじゃねえか」
「証拠が無いし……」
「はぁ……俺はよ、お前が好きだったんだぜ? 祭りで言おうと思ってたんだけど、呼び出されて死んで……。結局伝えることができなかった……。なぁ、あの時、何か言いかけてたよな? 続き、聞かせてくれよ」
 イーブイは頬を赤くして言った。
「わ、私も、君の事が好きだった……」
 上擦った声で伝えるあの日の続き。
「最期に聞けて良かった……ぜ。俺の未練はこれで無くなったみたいだ」
 彼の体が、金色に輝き、光の筋が夜空に昇っていく。
「え? い、嫌だよ! 折角会えたのに!」
 彼の手を掴もうとするが、虚しくも空を掴むだけだった。
 上半身が消えかかったイーブイを見て、二度と会えないことを痛感する。
 そう思うと、涙が零れてきた。止めどなく流れる涙は、頬を伝って屋上の床を濡らした。
「泣くなよ……。良い女が台無しだぜ……」
「そんなこと、ないよ……」
「俺と約束しろ」
「え?」
 薄くなった右手で指差された。
「お前がババアになって死んだら会いに来い。それまで待ってるからな」
「うん。わかった……」
 ──実は嘘だ。私は背中で人差し指と中指をクロスさせて答えた。
 つまり、約束してないということだ。
「じゃあな……。また会おうな──」
 すうっとイーブイの体が浮き上がり、細い金色の光となって天へ消えた……。
「ごめんね。私、嘘ついたの。もう、耐えられないから……」
 もう一度フェンスに登った私は、涙を拭って、地面へと身を投げた。

「待っててね……。直ぐに逝くから……」

 直後、鈍い音がして、私は地面に叩きつけられた。


だんご3 ( 2017/06/03(土) 00:32 )