中編
翌日、私は嫌悪感が残るなか、学校に行った。
案の定クラス内ではイーブイの死について持ちきりだった。
「ねえねえロコンちゃん。ちょっと来てくれる?」
あまり話した事のないアマージョに呼ばれた。
緑色の頭に色白い肌。極めつけに可愛くて、父親は大企業の社長。
まぁ、男子に人気なのは言わずともだろう。
「な、なに?」
登校直後、体育館裏に呼び出された私。ドラマでよく見る虐めの場所だ。
まさか、と身構えて話を聞く。
「ロコンちゃんさぁ……。あたしのイーブイはあんたのせいで死んだのよ?」
「わ、私のせいで?」
「そうよ」
アマージョがパチンと指を鳴らす。何か仕掛けてくる、とアマージョの動きに集中する。
だが、攻撃は予想外の後頭部に直撃した。
「がッ……!」
倒れて、薄れゆく意識でちらりと背後を見ると、チラチーノにぶん殴られたようだ。
私は罵られながら、意識を失った。
〜☆★☆★〜
「……んぅ……」
後頭部に痛みが残っているが無理矢理起き上がる。
──保健室?
私は学校の一階にある保健室のベッドに寝かされていた。
「あら、起きたのね。良かった〜」
養護教諭のタブンネが席を立った。
「大丈夫? アマージョちゃんとチラチーノちゃんが運んでくれたのよ。貴女が倒れてた、って」
「はぁ……。そうですか……ありがとうございました」
「あ、もういいの?」
「えぇ。大分気分もよくなりました」
「そう、気を付けて帰るのよ」
「え?」
バッ、と時計を見る。時刻は五時ジャスト。
はぁ、溜息をついて教室に戻る。
「え!?」
教室内が見える所まで来ると、目を疑うような光景があった。
「う、嘘……」
私の机は荒らされて、油性マジックで『死ね』等の落書きがされていた。
「犯人はアマージョか……」
先生に言おうか悩んだが、何しろ証拠がないためどうにもならないだろう。
「しょうがない……。帰ろうか……」
私は机を直す気にもなれず、カバンを背負って帰路についた。
翌日から私は……想像を絶するほどの虐めにあうのだった。
「おはよー」
ガラッと教室のドアを開けた瞬間、濡れた雑巾が飛んできた。
「あぶッ!?」
ギリギリの回避をして投げた奴を睨む。
「おーおー、こえーなー。殺人犯に睨まれちまったぜ!」
ギャハハハハ! と爆笑の渦が巻き起こる。
「お前も殺されちまうぞー!」
「な、何でこんなことするの?」
一応訊いてみる。
「それはね、貴女がイーブイ君を突き飛ばして車に轢かせたからよ!」
アマージョが私の前に立ちはだかる。
「へぇ……? 想像力が豊かですねぇ、お嬢ちゃん。小説家にでもなったらどう? その嘘をつく舌でね」
アマージョの顔が余裕、から怒りに塗り替えられていく。
「私が、嘘つきですって? みんな? 私が言ってるのは真実よね?」
うんうんと首を縦に振る聴衆供。
成る程、これが《虐め》というものか。強がっているものの、実は逃げ出して泣きたい気分だ。
しかし、ここで引き下がれば悪化するだろう。
「そこ、私の席なんだけど。退いて」
私の机(まだ綺麗にしてない)の上に座るリオル。
「は? 殺人犯は黙れよ」
流石にカチン、ときた私はリオルの喉笛を掴んだ。
「マジで殺してあげようか?」
しかし、タイミングの悪いことに先生がやって来た。
「ちッ」
「ほらー、早く席につけー」
教師が言うと、群衆はぞろぞろと散っていった。
「ん? ロコンの机はどうしたんだ?」
「いえ……。特に何ともありません」
「そうか?」
教師は怪訝な表情をするが、肩を竦めて授業を始めた。
〜☆★☆★〜
──次の日から、私への虐めはエスカレートしていった。
水を掛けられたり、石を投げられたり、砂を掛けられたり……。
はっきり言ってタイプ相性で攻めてくるのはやめてほしい。
肉体的にも精神的にも辛い。
極めつけは給食にゴミを入れられた事だった。
家に帰っても親には言えず、私は心身ともにぼろぼろだ。
「疲れちゃったよ……」
イーブイが死んで一週間後の真夜中。
私は彼の形見の《星の砂》を手に学校の屋上にやって来た。
校門を乗り越え、女子トイレの鍵の壊れた窓から侵入したのだ。
──「お化けとか怖くないの?」 と訊かれても、「怖くないの」とはっきり言える。
何故なら……私の人生は今日で終わりなのだから……。
屋上のフェンスによじ登って身を投げようとした、その刹那。
首にかけていた星の砂が夜空に光る一等星に負けないぐらい輝いた。
「な、何ッ!?」