05 最終話 俺しか知らないあの日の記憶
先生が自己紹介を促すと、転入生が口を開いた。
「イーブイです。分からないことが多いですが、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げた彼は座るべき席を探して辺りを見回した。
「え? それだけ?」
先生が訊いた。
「はい……」
「他に何か特徴とか……」
「特徴……。まぁ一つ。俺の家は施設です。家族いません」
クラスがしん、と静かになった。だがイーブイは何事もなかったかのように振る舞っている。
「先生ぇー! 私の隣空いてまーす」
突如ロコンが叫んだ。
「あ、はい。どうぞ……」
先生はハッ、と我に帰る。イーブイはとことこ歩いてきて、ロコンの隣に座った。
「はは」
座った途端に急ににやけた。気持ち悪い奴だ、と軽蔑の眼差しを向ける。
「みんな、ただいま」
彼は気持ち悪いうえに理解不能な事を呟いた。
「ブラッキー、お前今、俺のことを変な奴だと思ったろ」
「う、うん……」
見抜かれてドキッとする。
「いいんだ。お前の性格ならしょうがないよな。ルカリオはゾロアークと付き合ってんだろ?」
今度はルカリオがガタッと立ち上がった。
「な、何でそれを?」
「俺はお前達のことをなーんでも知ってるぜ。例えば、エルは未来から来たとか。アブソルは地獄山にいたところを助けてもらったとか」
全員が全員、口を開けたまま硬直した。
「な、何で……知って……?」
「秘密さ」
〜☆★☆★〜
──そう、秘密だ。絶対に言わない。言ったところで信じてもらえないし。
あの日の記憶を俺が覚えてるじたいおかしいのだから。
あの時、俺とサタンは全力で時間を巻き戻すと同時に、《俺》という存在を完全に時間軸から消去した。
にも拘らず、俺は気がついたら捨て子の集まる施設にいた。
初めは濃いベールがかかっていて何だか分からなかった。
でも毎晩、彼らと出会い、戦った記憶が、夢となって現れた。
次第にベールは剥がれ、つい先月に、全てを思い出した。
そして俺は当時の力を取り戻し、最強になった。毎日ダンジョンに潜って金をため、施設のマザーに渡した。
『マザー。俺、ポケット中学に行きたいんだ。ほら、金もあるから……。転校させてくれないか?』
『そうだったのね……。貴方が毎晩ダンジョンに行ってたのは……』
マザーことガルーラは目に涙を浮かべた。
バレていた。俺は自分の迂闊を嘆いた。いつも俺のことを気にかけてくれていたポケモンを心配させるなんて。
『そう、わかった。ポケット中学に転校してもいいわよ』
マザーは涙を拭って答えた。
『ほんと!? ありがとう!』
という訳で俺は二年から転入したのだ。
久しぶりに見るブラッキー達の顔。懐かしいなんてレベルの話じゃない。
「ただいま……」
俺はもう一度、みんなに言った。
そう、これで良いんだ。全部何もかもが元通りで……。