01 32話 帰還
サタンはイーブイの亡骸や、ルカリオ達全員の死体をネーティブの大地に埋めた。
「……ちくしょう」
ただそれだけ呟くと、涙を拭って鼻をすすって、帰路についた。
後ろを振り返って、水晶の宮殿を数秒間眺めてから歩き出した。
道中は誰にも会わずにウルトラホールが会った場所に着いた。
「まだちゃんとあるな。良かった。帰れるな……」
もう一度だけ、振り返って名残惜しそうに宮殿を眺める。
「もし、もしもあそこで俺が死んでれば……」
彼の脳内でもう一つのストーリーが構想され始めた。
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「グアッ!!」
「サタン! てめえ、まだ生きてやがったか!」
イーブイはティングの首を蹴っ飛ばした。奴の首(元はソウタの物だが)は放物線を描いて床に落ちた。
「……まったく、何やってんだよ。ほら、傷見せてみろ」
「いや、おれは……先に逝くよ」
サタンがそう言った次の瞬間、イーブイの強烈なビンタが頬に叩き込まれた。
「てめえ勝手に死のうとすんじゃねえよ!」
「いいんだ……」
「黙れ!」
再びビンタ。やられた傷よりもビンタの方で死にそうだ。
「……ッ……! はい元通り!」
イーブイが手を離すと、そこにあった血の噴き出す生々しい傷はキレイさっぱり無くなっていた。
「……ありがとう」
「良いってことよ。さあ、みんなを埋葬して帰ろう。こいつらの分まで生きようぜ」
イーブイは控え目に笑った。
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「何で……ビンタしてまで止めなかったんだろ……」
悔恨の念が、サタンの心を覆い尽くす。最後にもう一度だけ見て、ウルトラホールを潜った。
青いトンネルのような道を通り抜けて彼は、ワイワイ海辺に着地した。
「これからは……俺がイーブイ。できるさ、俺なら」
意を決してサタンは来た道を戻り始めた。
「森も何もかもボロボロのぐちゃぐちゃだな……」
葉が一枚もついていない木に手を触れて、溜息をつく。
「それにしても、誰にも会わねぇな」
キョロキョロと周りを見て敵味方問わず誰かいないか確認する。
「ウルトラビースト共を全部殺して祝勝会でもやってんのか?」
と、呟いたサタンは意気揚々に帰宅するのだった。
しかし、現実とはそううまくいくものではない。
その事をまだサタンは知らない。
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「おーい! ただいまー!」
駆け足で茂みを抜けて、《元》自分の家に近づく。
が、そこで待ち受けていたものは──絶望だった。
ツヨイネ含む仲間達は無惨に切り刻まれて地面に転がっていた。
家はウルトラビーストに占領されて妙な落書きまでされている。
「ん? おぉ、イーブイ君じゃないか。この家の居心地はサイコーだね」
ニヤリとフェローチェが微笑んだ。
「さて、諸君。最後の戦いの始まりだ。奴は消耗しきっている。数で圧しきれ!」
フェローチェがサタン討伐令をだすと、周囲のビースト達がサタン目掛けて飛びかかった。
刹那、先陣をきったフェローチェの頭を鷲掴みにして地面に叩きつけた。
「俺が、消耗しきっているだぁ? 嘗めんじゃねえ、てめえらごときに負けるわきゃねえぜ」
《未来剣》を右手に持ち、ゆったりとした構えをとる。
緊張感漂うフィールドで、一番最初に動いたのはサタンだった。
七秒後の未来を見る、というチート級の能力を使用して誰が一番最初に動くかを見たのだ。
それは最後尾にいたテッカグヤで、仲間の間を縫って破壊光線を撃とうとしていた。
「させるかよ」
潰したフェローチェの体を持ち上げてフルスイングでぶん投げる。
突然の投擲に体勢を崩されたテッカグヤは、破壊光線を狙い定めた場所とはまったく違う場所に放った。
直後、凄まじい爆発音と共に、彼等の同朋は儚く散った。
「え……?」
破壊光線が命中した地面が剥がれ始めた。
「な、何が、何が起きて──!!」
サタンはそこで止めた。彼は何が起きたのかを悟ったのだ。
空間の神、パルキアが死んで、その弟子? のエルがいなくなった。
つまり、空間を支える者がいなくなったから強い衝撃を与えると崩れるようになったのだ。
「こりゃマズイ……」
サタンは戸惑って足を止め、崩壊に巻き込まれるウルトラビーストを背に、安息の場所を求めて走った。