02 28話 寄生
「ブニャット───!!」
「いやああああああ!」
宙に浮かび、ブラックホールのような口に吸い寄せられていくブニャット。
抗うことも、助けることも不可能。
ブニャットが口内に納まった瞬間、ガシャン、と口が閉じた。
「……ふぅ、やはり新鮮な方が美味いな」
ニヤニヤと笑うティング。
「よくもブニャットを!」
ジャノビーが《草双剣》を手に、ティングへ突撃した。
「ジャノビーよせ!」
制止を振り払い、彼は雄叫びを上げて斬りかかる。
「まだまだ青いな」
復活した触手に絡めとられて、喰われるジャノビー。
「ギャアアアアア!!」
ゴリゴリ、と骨の砕ける音がする。
──あり得ない。呆気なさすぎる。
「クックック。二匹食って残りは六匹。食いごたえがあるのぉ!」
「近距離が危ないなら、遠距離で攻めるぞ」
ソウタが黒い角からサイコカッターを飛ばした。
俺達もそれに倣って波導弾を放つ。
が、その作戦も奴の口内に消え去った。
「やっぱり、接近しかないのか……」
《雷槍》を右手に持持って構える。
「ダメだよ! 君まで喰われちゃう!」
エルが俺の腕を掴んだ。
「いいや、行かなきゃならない。あいつらの分まで頑張らなきゃ」
俺はエルに告げて、ティング目掛けて突っ込んでいった。
「二度あることは三度ある! だな!」
触手が左右から伸びてくる。これは想定内だ。
棒高跳びのように槍の柄で跳躍する。
「おらッ!」
空転の際に、槍を右側の触手に投げる。黄色の軌跡を引きながら突き刺ささる。
「ギャアアア!!」
短い絶叫。休む暇を与えずに、開ききった腹の口に《水弓》を五本撃つ。
「グゲェエエ……」
涎のように体液を吐き出すティング。そこに更なる追撃を加える俺。
「おおああああッ!!」
《氷雪剣》を左に切り上げると同時に俺も跳ぶ。
そして垂直に振り下ろす二連撃を極める。
「ぐぉ……おぉ」
虫の息同然のティングは最期の抵抗か、小さな針を飛ばしてきた。
すっ、と横に避ける。
「いてっ」
ジャックが呻いた。運悪くあの小さく細い針が彼に刺さったのだろう。
「ジャック!?」
ティングの死体を見下ろす俺にエルの悲鳴が耳に入った。
「どうしたジャック? そんなに痛かったか?」
床に倒れてぶるぶる震えるジャック。何かおかしい。
「に、げろ……。なん、かがく、るぅううオオオオ!!」
彼の声とは思えないほどの野太い声が響いた。
「何だ?」
ジャックの青い頭や体が黒ずんでいく。
「く、くくく! ふはははは! こいつの体は乗っ取ったぞ!」
「こ、この声は! ティング!?」
「その通り。私の本体が放った針は《寄生針》と言って、絶命する間際に誰かに刺さると精神を乗っ取って自分の物にできるのだ!」
「ジャックを返せ!」
エルがジャック──いや、ティングに向かって駆け出した。
「さっきまでの私とは一味違うぞ!」
ティングはジャックの体を用いて更に強くなったようだ。
エルの凄まじい速度のパンチを簡単に避けている。
「甘い!」
ティングの回し蹴りがエルに襲いかかる。胸を強く蹴られて宙を舞って俺達の近くに墜落した。
「エル! しっかりしろ!」
ゴホッゴホッと咳き込んだエルはよろよろ立ち上がった。
「どうするの……? ジャックの体を使って強くなっちゃったよ」
「殺すしかない……」
サタンが答えた。
「他に方法とかないの?」
ルカリオがティングの動きに注意しながら訊いた。
「いや、無理だ。《寄生》というのは寄生される側、つまり宿主と一体化する事になる。肉体はジャック、だが精神はティング。と言うことだからもう、ジャックは死んだも同然だ」
「たまには僕が殺るよ」
《波導棍》を右手に持ったルカリオが言った。
「やめろ! 死んじまうぞ!」
「大丈夫。ゾロアークの顔を見るまで死なないから」
「いやそれフラグだから!」
俺とエルで引き止めようと足にしがみつくが、直ぐに振り払われてしまった。
「お前だけか?」
「うん、僕だけだ。でも、お前を殺すには丁度いい」
ティングの飛び膝蹴りを《波導棍》で受け流す。入れ替わると同時に、棍で背後を突く。
「まだその体に慣れてないんだね」
立ち上がろうとするティングの足の裏を踏みつけて足の指を折る。
「うわぁ……。ルカリオってあんな酷いことするっけ?」
遠目から眺める俺達はルカリオの非道っぷりに感心していた。
「それッ!」
続いて腰の骨を砕こうと振り上げた《波導棍》は、直撃の一歩手前でティングの折り曲げた足の甲に弾かれた。
もし、もしも仮に《波導棍》が切断系統の武器だったなら、決着はついていただろう。
「え!?」
虚を突かれたルカリオは、ティングのもう片方の足で払われて腹を床に打ち付ける。
「ぐぅッ……」
痛みに苦しむルカリオ──の上に覆い被さるティング。
「え……? 嘘!? やめて! 嫌だああ──」