01 27話 最恐の捕食者
「はぁ……、それで共闘することになったと」
一通り説明してみんなの理解を得る。
「いや、何かその、殺しちゃってホントすいませんでした。謝っても赦されないと思うけど……」
エルが残っているロボクルとゴリアスに深々と頭を下げた。
「いや、戦争を始めたこっちが悪いわけだから殺されても文句は言えないよ」
ゴリアスは何かを悟ったような目で俺達を見据えた。
「ソウデスヨ。元ハト言エバ、ティングガ全部悪インデス!」
ロボットのような喋り方のロボクルがドスドス床を叩いた。
「まぁ、ここにいても何も始まらねぇ。さっさと行こうぜ」
サタンが大広間を抜ける通路に歩き始めた。
俺達もその後に続いて大広間を後にした。
「ティングの部屋まで何れぐらいなのよ?」
ブニャットがゴリアスに尋ねた。
「この通路の先に王の部屋がある。ティングはそこで王とは反対側の壁で寝ている」
「え? 同じ部屋で寝てんの?」
ジャノビーがキモい、とでも言わんばかりの顔で言った。
「ま、側近だからなぁ。あ、もちろん同じベッドじゃないぜ!」
ゴリアスは焦ったように付け加える。
もしも、もしも本当に添い寝してたら……!
ブルルッと体を震わせる俺。何て想像をしてしまったんだ、と自分を責める。
「ここだ」
ゴリアスが巨大な黒曜石製の押し開けた。
「な……」
扉を開けた瞬間、この世の終わりを目にしたような、健全な心を亡くしたような(もとより持ち合わせていないが)気がした。
何者かが、誰かの上にのし掛かっていた。
しかも、雄どうしで。
「ティング! 貴様何をしている!」
ティング、と呼ばれたアクジキングはこちらを向いた。
「食事中だ」
ティングはニヤリと笑うと、腹部にある巨大な口を大きく開け、下敷きの者を噛み砕こうとする。
「や、やめろ! 助けて、くれええええ──」
悲鳴はプツン、と途切れた。
辺りにはぐちゃぐちゃと肉を咀嚼する音が響く。
「く、くくく、クフハハハハ!! これでネクロズマは死んだ! これからは私が王だ!」
「ティング! ヤリスギデスヨ!」
ロボクルが叫んだ。それを鬱陶しそうに睨むティング。
「王に逆らうとはいい度胸だ」
ティングは鋭い牙の並ぶ腕をロボクルに向けて放った。
それは生き物の如く動き、ロボクルに噛みついた。
「グアアアアア!!」
断末魔の悲鳴が周囲に響き、竹のような腕がもぎ取られた。
「ロボクル!」
ゴリアスが触手を引き剥がそうと躍起になるが、余計に傷つけている。
「ふん、貴様も用済みだ」
右の触手がロボクルから離れ、ゴリアスの首筋に喰らいついた。
「ゴリアス!」
俺はアイアンテールで触手の切断を試みたが、予想以上に弾力性があって床に叩き落とすしかできなかった。
「ゴリアス! しっかりしろ!」
「会って……いきなり終わりか……。これが運命って奴か……。俺はもう逝くぜ……。お前達は、くるな、よ…………」
言い終わるや否や、ゴリアスはピクリとも動かなくなった。ロボクルも同様に命を落としたらしい。
「グハハハハハハ!! さあ、次は貴様らの番だ! ポケトピアのチビどもよ!」
高らかに笑い、凄まじい速度で迫ってくる触手の牙を素手で掴む。
「次に殺されんのはてめえだこのクソ野郎があああああ!!」
上牙と下牙を勢いよく開かせる。ブチブチ、と皮膚やら神経やらが裂ける音がする。
「オラアアアッ!」
残りを一気に引き裂いて、触手を上下に分断する。
「き、貴様ッ! 私に楯突くと言うのか!? この神に!」
「悪いけど、神なら一回戦ったことあるんでね。そんぐらいじゃあ怯まんよ……」
《水弓》を出して矢を三本引き絞る。
「ポケトピアを侵略しようとしたことを後悔するといいさ」
穏やかな口調で言って、矢を放つ。高圧水流の如き貫通力でティングの腹部の口を貫いた。
青い体液が涎のように流れ落ちる。
「……るなよ」
「あ? 何つった?」
「嘗めるなよおお!!」
腹部口が大きく開いた。
──何がしたいんだ?
「イーブイ!」
ブニャットに呼ばれて振り向く。
見れば大分みんなと距離が空いているではないか。
「あんた吸い込まれてるよ!」
前を見ればティングに近づいていた。
「え? 喰われる?」
持ち前の速度にプラスして自身に《クイック》をかける。
──やべぇ、最近発売された吸引力の変わらない掃除機【ライソン】よりやべぇ!
「跳べ!」
ブニャットが叫んだ。俺はそれに従って、思い切りジャンプした。
果たして──俺はブニャットから逸れて柱に掴まるルカリオにキャッチされた。
「え?」
自分がキャッチするはずだった者を受け止められずにポカーンとした表情のブニャット。
「あ! あああああ!!」
油断した隙にブニャットの巨体は宙に浮き、ブラックホールのような禍々しさを醸し出す腹部口に吸い込まれていった。
「ブニャット──!!」