01 20話 もう一匹
「つ、着いた!」
俺は柔らかい砂浜に足をつける。続いてソウタ、エル、と続々到着する。
「ウルトラホールとやらはどこに……?」
キョロキョロ辺りを探し回るが見当たらない。
ただ虚しく波の打ち寄せる音が聞こえるだけだ。
「ちっくしょーッ!!」
苛々して近くに大岩を蹴飛ばした。
普通だったら骨折ものの強さの蹴りだが、逆に岩が粉々に砕け散った。
「は、発泡スチロールだ……」
ボロボロに崩れた欠片を拾って確かめる。
「い、イーブイ! 後ろ!」
「おおおお!?」
エルが手を振って叫んだ。後ろを向いた俺は、吃驚して約三メートル後ろに引いた。
「こ、これがウルトラホール?」
全長約五メートルある紺色の穴は、不穏な空気を放っていた。
「いいか? 最終チェックだ」
俺はワイワイ海辺まで着いてきてくれた六匹の仲間の顔を見た。
「このホールを通ったらポケトピアに帰ってこれないかもしれない……。それでもいいか?」
「もちろんだよ」
「その為に仲間にしたんじゃねえのかよ」
等々口々に言うみんな。
「じゃ、俺も着いてくわ」
「は?」
何となく聞き覚えのある声がした。
恐る恐る振り返ると、未来の俺こと、サタンがいた。
彼ははぁはぁと荒い呼吸をしている。
「何で息切れしてんだよ」
俺が尋ねると、サタンは苦笑して答えた。
「俺ン家から走ってきた……」
「スカイランドからか?」
「いいや、俺の家。言い替えればお前の家でもある」
ようはマイホームに行ってから超速で来たのだろう。
「あのー、盛り上がってるところ申し訳ないんだけど、あんた誰?」
ソウタがサタンに冷ややかな眼差しを向ける。
「俺はサタン。こいつの未来の姿でもある!」
ポンと俺の肩に手を乗せた。
「だから全員のこと知ってるぜ」
ニカッと白い歯を見せて笑う。
「ちょっと借りるぞ」
俺の腕を引っ張ってウルトラホールの後ろに連れ込むサタン。
「何だよ。こっちは忙しいんだよ」
「お前さ、この現実が正しい未来だと思うか?」
「は? この後に大事な決断があるんだろ」
「いいや、本来ならば今現在、お前は結婚に追われているはずだ」
……ケッコン?
「おい、俺の怯え続けた三年間は何だったんだよ!」
「結婚だからこそ悩めよ! 一生を共にする雌を選ぶんだぞ!」
「知るか! 俺は結婚なんかしない!」
ギャーギャーわーわー騒ぎすぎたららしい。陰でこそこそエル達が覗いていた。
見聞きされた恥ずかしさに舌打ちして指をパチン、と鳴らす。
即座に《ストップ》の効果が発動して覗き魔達は硬直する。
「俺達は300回以上も結婚を繰り返してきたのか?」
「そういうことだ……けど今回は180度変わってる。だから別の決断が来るかもしれないし、来ないかもしれない」
「なあ……根本的なこと訊いていいか?」
「何だよ」
「何で空の上から何が起きているか分かったんだ?」
「それはだな──」
サタンは自慢気に語りだした。