09 8話 ぽっちゃりでも愛す
「むぅ、カレーとラーメンか……悩むな」
お土産屋にて、食事に悩む俺とエル。
「このラーメン醤油味だって」
「このカレーは中の上辛だと。中途半端だな」
俺とエルはパッケージの裏を見ながら互いに報告しあう。
「じゃあ俺カレーでいいや」
レトルトカレーの袋を手に取る。
「んー、じゃあラーメンでいいや」
エルは悩んだ挙げ句カップラーメンに決めた。
俺の部屋に戻って置いてあった鍋に水を入れて火にかける。
「沸騰するまで今後の方針を決めようか」
「ワイワイ海辺までどう行くか? でしょ」
「ああ。このまま道なりに南に進めば着くだろうけど……」
「世界消滅までの時間が、だね?」
「お前はどうして俺の考えを当てるんだ?」
「君の考えぐらい何となく分かるよ」
エルはにへへ、と笑う。一瞬呆れ顔したが、釣られて俺も一緒に笑い返す。
「で? どうするつもり?」
「ここまで来て戻るのもあれだし、やっぱり歩き続けるしか──お、沸騰した」
グツグツと音を立てて煮える湯からカレーの袋を取り出して──。
「ああ─────!!」
「な、何!?」
カップラーメンにお湯を注ぎ終えたエルがこっちを見た。
「ルーがあっても米がねぇ……」
「カレーは飲み物、とかエーフィが言ってたよ」
「それはな、デブの言うことだぞ」
「エーフィは太ってない!」
急にエルが怒鳴って詰め寄ってきた。
「え? 前に姉ちゃんが体重計に乗ったのをこっそり見たけどなんと40キロちょいだったぞ」
「そ、それは成長期だから……」
「もうそろそろ二十歳の奴に成長期が来るかよ」
「ぼ、僕はぽっちゃりした子も好きさ!」
「それは姉ちゃんがデブだって認めたって事だぞ!」
「うっせーッ!!」
怒りに任せて放ったアイアンテールは俺の胸板に命中し、思い切りぶっ飛ばした。
「うあああっ!?」
時速約40キロ程度の速度で宙を舞った俺は、部屋の固い壁を突き破って外に放り出された。
「ガルルルル……」
町に蔓延る野良ポケ共が獰猛な目付きで睨んでくる。
噛みつこうと飛びかかってきたグラエナの涎まみれの下顎を掴む。
「失せろ」
どすの効いた声で言うと、グラエナは怯えたように一鳴きして逃げ去った。
そいつがリーダー格だったのか、逃げ出すグラエナを見た取り巻きは追いかけるようにして去っていった。
「ッたく……。涎まみれだちくしょう」
俺は穴の空いた壁からホテルに戻る。
「エルの部屋に行くぞ」
「えー?」
何で? という顔をするエルの襟首を掴んで引き摺っていく。
確かエルは隣の部屋だった気がする。
ドアを開けるとジャック、ブニャット、ジャノビー、更にはルカリオまでがいた。
「あれ? ここ、エルの部屋じゃないのか?」
「そのはずだけど」
俺もエルも困惑する。するとジャックがこちらを向いた。
「何でこの一部屋に集まってるか知りたそうな顔してるな」
俺はこくりと頷いた。
「俺達はよ、あんまり仲良くねえから親睦を深めるために集まったんだ。だからお前らも来いよ」
「はあ……」
気のない返事を返して輪に加わる。
「ジャックって彼女いるの?」
不意にルカリオが尋ねた。
「あ、ああもちろんいるぜ」
「へー! 教えて教えて!」
みんながぐいぐい詰め寄ってジャックを追い詰める。
「わかった! わかったから! その代わり、お前らも言えよ!」
「いや、俺いないから」
と、俺。
「私も」
と、ブニャット。
そう返せないのはツヨイネ三匹のみだった。
「俺はな、ユキメノコと結婚を前提に付き合ってるんだ」
『え───────!!』
みんな驚いて叫んだが、一番はルカリオだった。目を丸くして驚いていた。
「ふとユキメノコを見た時に可愛いな、と思ったから告白したら成功した」
「ほほー」
「次は……エルだな」
突然指名されたエルはビクッと体を震わせた。
「僕はエーフィとだよ」
「僕はゾロアークと」
「俺はルミナと。あ、アシレーヌ族のな」
「そうだ、ブニャットはさ、40キロってデブだと思う?」
エルが思い出したように訊いた。ブニャットは少し苛立ったように答える。
──エル、訊く相手間違ってるよ。
その場にいた全員が思ったことだった。
「40? ガリガリじゃないの」
「ほら、どうだよイーブイ! ガリガリだってよ!」
──それは、ブニャットからしてみればの話じゃないか?
心の中で思ったが口に出した瞬間、ペチャンコに潰されているだろう。
「はは、まあ、そうなんじゃね?」
誤魔化すように苦笑いして乗り切る。
この後午前一時まで語り明かした俺達は、床に突っ伏して死んだように眠った。
──今日は、みんなの知らない一面を知ることができて嬉しかった。でも、逆に知られたくない事を暴かれ恥ずかしかった。
けど、取り敢えず楽しかった。
こんな毎日が戻ってこないかなあ……。
と思う俺だった。