08 7話 霧の町
「全く……。ワイワイ海辺まであとどれくらいの距離があるんだよ」
ジャックが腕を組ながらぼやいた。
「嫌なら戻っていいんだぞ。お姉ちゃんのいる場所に」
嫌みたっぷりに告げるとジャックは俺の背後から頬を掴んで持ち上げてきた。
「サーナイトは関係ねえだろ!」
「いだだだだだだ!!」
地上から約一メートル50センチ浮いている俺は、手足をばたつかせて必死に逃げようと奮闘する。
「世界が終わるって時に何してんのよ」
ジャックのふくらはぎ辺りにブニャットのキツイタックルが当たる。
「ぱうあっ!?」
膝かっくんされたかのように前のめりになったジャックは俺を取り落とした。
「賑やかでいいねぇ……」
エルとルカリオはにこやかに微笑みながら言った。
「これは……ダンジョンか?」
ブニャットが立ち止まった。俺達も止まって彼女の見つめる先を見る。
本来ならば町があるはずのそこは野生化したポケモン達がうろついていてダンジョンのようだった。
「とにかく進まなきゃな」
一歩足を踏み入れた瞬間、野生ポケモン達がこっちを睨んだ。
「え……? まさか襲いかかって来ないよな?」
「はは、フラグ乙」
ポンとエルが俺の肩を叩いた。
「はあ……」
深い溜息。
《草笛》を創って、ありったけの力で吹く。
しゅるる、と緑色の蔓が伸びて鞭となる。
「そぉれっ!」
生き物のようにしなる鞭はバチィンと甲高い音を立てて敵に命中した。触れた箇所の皮膚が裂けて肉が剥き出しとなる。
「やるじゃん」
ジャックが口笛を吹いて囃し立てる。
「うるせ。後で縛り上げんぞ」
「はっ、できるもんならやってみろよ」
回し蹴りで二体同時に吹き飛ばしたジャックは言った。
「……泣いても知らねえぞ!」
「はー……。ダンジョン、って言うよりかはデカイモンスターハウスだったね」
《波導棍》を杖代わりに立つルカリオが呟く。周囲には気絶した野良ポケ達が倒れている。
「……しっかし広い街だなぁ」
中性の町並みを彷彿させる建物がずらりと並んでいる。
更には霧まで出てきた。
「うわー霧まで出てきたよ」
エルが邪魔そうに霧を払うがどうすることもできない。
「しょうがない。どっか宿みたいな所を探そう」
先の見えない道に目を凝らしながら言う。みんな俺の意見に賛成のようで血眼になって探し回った。
そして三十分後、ジャノビーが高級そうなホテルを発見した。
「おお……。ここなら食料とかもあるんだろうな」
自動ドアを無理矢理抉じ開けて入場する俺ら。
どこも壊れていなくて綺麗なままだった。
ソファはふかふか。お土産は消費期限ギリギリ。部屋は使い放題。
最高だね。
「俺ここー!」
各々が部屋を取ってくつろぐ。一応もしものことを考えてみんな一階にいる。
「今は五時ー♪ 風呂に入ろうー♪」
自作の歌を口ずさみながら備え付けのバスルームに入る。
少し熱いめのお湯を出して体を濡らす。
「はー、邪魔のはいらない風呂っていいわー」
思い返せば風呂に入る度にロコン、アブソル、グレイシア姉ちゃんが入浴しにくる。
しかも「あれぇ? 奇遇だねぇ」とか付け加えて。
「なーにが奇遇だよ。バリバリ狙っただろ」
ぶつぶつ文句を言いながら湯船で足をばたつかせる。
「イーブイ、入るよ」
風呂場のドアに俺と似たような影が映っている。
「どうした? エル」
おずおずと入ってきたのは癖っ毛が特徴のエルだった。
「いやぁこんなに広いお風呂に僕だけってのも淋しくてさあ」
「ルカリオはどうだったんだよ」
「何か、シャワー浴びながら精神統一してたから」
「ジャノビーは?」
「ルミナの名前を呼びながらごぞごそやってた」
これでツヨイネメンバーは全滅した。残るはジャックとブニャット。
両者ともエルとはあまり交流がなく、当然行かないだろう。
「で? 何で俺にしたんだ?」
「暇そうだから」
「もしも俺が忙しかったらどうすんだよ」
「君に限ってそんなことはないよ」
憎たらしい程の汚れなき笑顔。
こんなの見せられたらついつい赦しちゃう……
「何てなるか!」
バシャッとエルにお湯をかける。
「やったな!」
エルもかけ返してくる。
双子のようにはしゃぐ俺達は、今、世界が終わりに向かっていることを忘れていた。
「ふー。さっぱりしたぜ」
置いてあったタオルを使って体を拭く。毛量が多いとかなり大変だ。
が、寒い所では多少軽減するから嫌ではない。冬とかもまあまあ暖かいし。
「さて、次は夕食です。お土産屋から盗ってこよーぜ!」
「うん!」
俺とエルは元気よく部屋から飛び出してお土産屋に向かった。