07 6話 作戦無視
「こっちにも集まって来たわね」
サーナイトが溜息をついた。
「取り敢えず二グループに別れて戦いま──ってミミロップ! どこいくの!?」
エーフィの提示した作戦は開始三秒足らずで水の泡となった。
独走するミミロップの背後には沢山のウルトラビースト達が追いかけている。
「ほらほら! こっちだよ!」
挑発するミミロップの横に加速し続ける二体のフェローチェが並走した。
二体のフェローチェは不気味な笑みを浮かべ、細くしなやかな腕を鞭のように振るって攻撃してきた。
「はあッ!」
それを避けるべく斜め上に跳躍したミミロップ。
「頭上にご注意くださーい」
そう言って腰のポーチから特性手榴弾を三つウルトラビーストの群れの中に放り込んだ。
たちまち爆発し、ビースト群の半数を滅した。
「あんたらも」
次いでプラズマ銃を手に取り、並走していたフェローチェを撃ち落とす。
「まてコラーッ!」
怒号に追われながら涼しい顔で差を拡げるミミロップ。
時折後ろを向いては馬鹿にして手榴弾を投げ込む。
彼女が目的の場所に着いた時には八分の一が消えていた。
「はいお疲れさまー。ここが終点でございます。あんたらの命のね」
ミミロップはそう言って華奢な足で地面を踏みつけた。
その衝撃で尖った岩が宙に浮き上がった。
「《大地創造》。これは地面をリソースとする技なの。だから土地が良ければ良いほど強くなるのよ」
「それがどうした」
テッカグヤが鼻で笑った。しかし、ミミロップは至って真剣だ。
「つまり、こういうことよ」
黄土色の銃を取り出したミミロップはテッカグヤに向けて発砲した。
心臓を撃ち抜かれたテッカグヤはその場に崩れ落ちた。
「何をした!」
ウルトラビースト達がワーワー叫ぶ。
「言ったじゃない。この技は土地が良いほど力を増す、って」
一対大勢の状況で勝利を確信していたウルトラビースト達はちっぽけな拳銃一丁で鋼鉄の仲間が殺されたのを間近で見恐怖した。
それに付け加えてミミロップは土からいくらでも、と伝えたもんだからウルトラビーストは我先にと逃げ出した。
「逃がさないよ」
土製のマシンガンを創り出したミミロップは小さく、固い土の塊を乱射した。
後ろを向いて逃げ惑うウルトラビースト達の背中を貫通して更にその前の奴等も巻き添えにする。
「これ以上弾を消費したら技が解けちゃうな……。うん、いでよ! 私の分身!」
ミミロップが銃を捨て、地面に手を着いた。すると地面が盛り上がってミミロップ型の土塊人形が生まれた。
無言・無表情・無慈悲の三拍子揃った人形達はドタドタ足音を鳴らして敵の群れに飛び込んでいった。
「ギャアアア!」
「ヒイイイイッ!」
「赦してくれええええ!」
等々断末魔の悲鳴が聞こえるなか、ミミロップは残党を一掃出来るほどの手榴弾を三つ、お手玉のように投げていた。
「……ふぅ。そろそろ限界ね」
ミミロップがもう一度足を踏み鳴らすと土塊人形達はぼろぼろ崩れてただの土に還った。
「生き残りは十匹程度、か」
呟いたミミロップは敵陣の左右、中央に手榴弾を放った。
大爆発音と、黒煙と、血の匂いが混ざり合い風に乗ってミミロップのもとへ流れてきた。
「……うむ。実験は大成功だ!」
意気揚々とみんなの所へ帰ろうとするミミロップの前にマッシブーンとフェローチェが立ちはだかった。
「邪魔なんだけど。死にたくなかったら退きな」
「その言葉、そっくりそのまま返してあげるわッ!」
フェローチェは三メートル以上ある距離を助走なしの飛び膝蹴りで詰めてきた。
「わッ!?」
バク転で回避するが着地からの繋ぎの動作に遅れ、軽く体勢を崩した。
「もらった!」
フェローチェは相当な手練れのようでその隙を逃さずに鋭い蹴りをいれてきた。
無防備な腹部に命中し、ミミロップは苦痛に顔を歪めて吹っ飛んだ。
「ぐぅ……ッ!」
胃の内容物が込み上げてくるのを感じて口を手で抑える。
「……吐きそうなの?」
見下したような声で尋ねるフェローチェの足に吐瀉物をかける。
こんなとこで死ぬくらいなら恥をかいてやる! ぐらいの気持ちで行った作戦は運良く成功した。
ギョッとした表情のフェローチェの脇を駆け抜け、捕らえようと両手を広げるマッシブーンの頭を踏み、跳躍してその場から逃走する。
「ぅッ……」
まだ吐き気が治まらないのか、大きな木の上に登って身を潜める。
「さっきは危なかったわね」
「まあ、ね。でも私のて──え?」
「ふふ、見つけた」
先回りしていたフェローチェは屈託のない笑みを浮かべて、ミミロップの首を掴んで地面に叩きつけた。
「私とマッシブーンはね、隊のリーダーなの。そんじょそこらの雑兵とは違うのよ」
「これから死ぬ奴にそんな話は無意味だろう」
「それもそうね」
二匹は愉快そうに笑うとミミロップの胸に手を突っ込み心臓を握り潰した。