05 4話 さよならは言わない
「よく来たな」
アルセウスを始めとする伝説のポケモン一同が俺達を見下ろしている。
「ああ、久し振りだな」
軽い挨拶を交わした俺とアルセウスはさっさと本題に入る。
「ねえ、アルセウス。あの化け物達は何なの?」
エルが地獄のような光景の地上に目を向けながら尋ねた。
「……あいつらはウルトラビースト──」
アルセウスは事の全てを俺達に語った。
「そんな……。世界は終わっちまうのか?」
ジャノビーが情けない声を出してその場にへたり込んだ。
「アルセウス、敵の情報とかないか? 弱点とかさ」
「固有名ならばわかるが」
「それで全然オッケーだよ」
「まず、筋肉質で足が沢山ある奴はマッシブーン。力自慢だから正面からの攻撃は止めておけ。体が細くて白い奴はフェローチェ。素早い動きで翻弄してくる。三匹目はカミツルギ。折り紙のような見た目のあいつは刀のような鋭い腕を持っているから気を付けろ。変な木みたいな奴はデンジュモク。遠距離からの雷攻撃が得意だ」
「一体何体いるんだよ」
「まあ聞いてろ。竹のような奴がテッカグヤだ。巨体を活かした攻撃が厄介だ。ウツロイドは触手を伸ばして攻撃してくる。掴まれたら操られるから注意だ。最後に黒い化け物がアクジキング。奴についてはよくわかっていない……。以上だ」
五種類のウルトラビーストの戦い方も教えてもらった俺は、如何にすれば早く抹殺できるか考えた。
「どうすればあいつらを追い出せる?」
「もっともな質問だなエル。至って単純だ。ポケトピアの最南端、ワイワイ海辺に出現したウルトラホールを破壊するしかない」
「何だ、簡単じゃないか」
ルカリオが深刻な表情から一転し、顔が輝いた。
「しかし、戻れない可能性もある」
聞いた途端、ルカリオの表情が再び曇った。
「……でも俺は行くよ。どうせこれが決断なんだろ」
「決断? 何のことだい?」
「何でもねえよ。取り敢えず、一旦みんなの所に戻ろうぜ」
「なら送っていこう」
パルキアが腕を垂直に降り下ろすと、俺らが一変に通れるサイズの空間回廊が出現した。
『死ぬなよ』
山を出発する前に伝説のポケモン一同から応援された。俺は強く頷き返して回廊を通った。
〜☆★☆★〜
「ただいま」
メンバーが誰も欠けていないことに安心する。
「どうだった?」
「あいつらはウルトラビーストっていうんだ。特徴とかは全部アルセウスに教えてもらった」
一通り解説した俺は背後からの違和感を感じた。
話終えるまで待っていてくれたのか、会話終了と同時に殴りかかってきたマッシブーンを胴体から真っ二つに裂く。
「こんな風に、見つけ次第殺せ。情けはかけるな。分かったな!」
「俺とエル、それからルカリオ、ジャノビーはワイワイ海辺に向かう。着いてくるなよ」
「何しにいくの?」
グレイシア姉ちゃんがワイワイ海辺に行こうと振り返った俺の腕を掴んだ。
「……元凶を破壊しに」
一瞬、躊躇ったが、肝心の『戻れないかもしれない』という点は伏せておくことにした。
「頑張るのよ」
「ああ、任せとけ」
彼女がいる三匹は別れのキスを貰っていた。
これが最後になるかも、とわかっている雄達は普段よりも長い、濃厚なキスをした。
「行こう」
迷いを断ち切り、顔を見合わせて頷く俺ら。
一歩一歩死に向かって歩いているような気がしてならなかった。
「さよならは、言わないよ」
誰かが、小声で呟いた気がした。
〜▼△▼△
「さよならは言わないよ」 ロコンが去り行く後ろ姿を名残惜しそうに見ながら言った。
「行っちゃったね……」
グレイシアはイーブイ立ち去った直後、涙が頬を流れた。
「……あいつらが帰ってくるまで、戦死者は零に抑えるぞ」
リーダー不在の今、ブイズ家の長男サンダースが指揮を執った。
「そんなあまぁい考えが通用するかしら?」
ねっとりと絡み付くような不快感のある声。
「誰だ」
「私はフェローチェ! さっきの言葉、無理だって分からせてあげるわ!」
フェローチェが尋常じゃない速度で突っ込んできた。
スピードの乗った左膝がサンダースの額に命中した。凄まじい速さで吹き飛ばされたサンダースは民家に激突して崩れ落ちた。
「口ほどにもないわ」
嘲笑するフェローチェの背後に、黄色い閃光が駆けた。
「なにッ!?」
気づいた時には遅く、サンダースは《雷槍》を背中から腹部に突き刺した。
青い鮮血が槍先を伝って落ちるのと同時に、何百万ボルトもの電流がフェローチェの体内を駆けた。
「こんなもんかよ……」
槍を引き抜き、倒れた敵の脳天に二撃目を与えた。
「これから長い戦いになるから、今のうちに馴れるんだ」
サンダースは冷徹に言い放ったつもりだったが、恐怖で微かに震えていた。