03 2話 結婚式
あれから一週間。結婚式の事は誰一人として口に出さなかった。
ただ、サンダース兄ちゃんとシャワーズ姉ちゃんのラブラブ度が上がって気持ち悪い。
そして、当日が来た。タキシードを着た兄ちゃんはひきつった笑みを浮かべている。
「緊張してるのか」
ブースター兄ちゃんが腹を抱えて笑う。
〜▼△▼△〜
シャワーズは純白のウェディングドレスに身を包み頬を染めている。
「綺麗よー。いつかは私も着るの。もちろんお相手はイーブイよ」
グレイシアがにやりと笑う。
『だめよ! イーブイと結婚するのは私だから!』
完全に同期して申し出る二匹。
それは……アブソルとロコンだった。壁一枚(防音完璧)越しのイーブイは背筋に寒気が走った。
『新郎、新婦はご入場ください』
アナウンスが流れた。いよいよ彼らの出番だ。
〜☆★☆★〜
扉が開き、並んで歩いてくる彼ら。いつもの数倍かっこよく、可愛い。
「貴方は健やかなる時も、そうでない時も、彼女を愛しますか?」
「はい、誓います」
牧師の問いに確りと答える兄ちゃん。
「貴女は健やかなる時も、そうでない時も、彼を愛しますか?」
「はい、誓います」
続いて姉ちゃんが答える。
少し離れた席で俺らは疑問を話し合っていた。
「なあ、兄妹で結婚って大丈夫なの?」
ゾロアークがちらりと式段を見る。
「だめ、ってのは聞いたことがあるけど……」
ルカリオがうーん、と唸る。
「大丈夫らしいよ」
考え込む俺達に告げたのはブラッキーだった。スマホをスクロールさせて読み上げる。
「『本来、家族での結婚はあまりよろしくないが、進化前と進化後、または家族でも進化先が違ければ細胞構成も異なるので大丈夫。』だって」
「ふーん……じゃあブラッキーもブースター兄ちゃんもいけるんだね」
「はは……やったね」
言い返すのいい加減飽きたみたいで適当にあしらう二匹。
「では、誓いの口づけを」
牧師がキスを促す。兄ちゃんと姉ちゃんは互いに見つめあって少し微笑んでから熱いキスを交わした。
「ひゅーひゅー!」
周りから歓声が上がる。
「…………?」
幸せムードの中、俺は違和感を感じた。背中に突き刺さるような冷たい視線をどこかから向けられている。
キョロキョロ回りを見て発信源を見つける。式場へ続く扉からそれは発せられていた。
「どうしたの?」
拍手を中断したエルに尋ねられる。俺はなるべく自然な笑みを返して「ちょっとトイレに行ってくる」と伝えて式場から出た。
扉を開けると目の前には筋骨粒々のポケモンらしき者が佇んでいた。
「あんたも兄ちゃんか姉ちゃんの友達かい?」
何時でも《氷雪剣》を作れるように身構えながら訊く。
「ちょうど一週間、だ」
言い終わるや否、光の如き速度のパンチを打ち出してきた。
「ッ!?」
紙一重で避けたが、扉が破壊され、破片が色んなポケモン達に向かって飛んでいった。
「てめえ! 何のつもりだ!」
「動画、見なかったのか?」
「マジか……悪戯だと思ってたわ……」
《氷雪剣》を手に取って言う。
「その驕りが世界を滅ぼす原因の一つだッ!」
再び放たれる拳。その腕を氷雪剣で輪切りにする。
「ギャアアアアアッ!!」
ホール内に響く絶叫。黙らせるべく俺は横凪ぎに敵の首を切り落とした。
真っ赤な血が降り注ぐだろう、と思っていたが意外にも青い体液が降ってきた。
「……一体何が起こってるんだ!?」
みんなが駆け寄ってくる。俺は先週見た、あの動画について全てを語った。
「なるほど……。今日からこの変なやつらによってポケトピアは侵略される、と」
内容を要約して呟くジャノビー。
「取り敢えずは外に出てみるか」
建物から外に出た俺達は絶句した。
俺達の知る世界が、跡形も無く崩壊しているのだ。
ビルは崩れ、木々はへし折れ、そこら中に血が飛び散っている。
「……嘘……だろ?」
絞り出すように俺は言った。しかし、これは紛れもない現実だ。
現に空から降ってきた鳥ポケモンの生暖かい血が俺達を赤く染め上げるのだから。
「お前ら、敵は見つけしだいぶっ殺せ。俺は神々の山に行ってくる」
告げると同時に俺は走り出した。
「ま、待って!」
後ろからエルが追いかけてくる。更にルカリオ、ジャノビーも。
「わ、私も!」
アブソルとロコンまでも。
「ちッ! そんな大人数いらねえよ!」
走りながら後ろを向き、子供がよくやる鉄砲のような指の形を作り、アブソルとロコンに照準を合わせる。
《ストップ》を弾状にして彼女達に打ち込む。ぴたあッ、と止まるアブソル達に叫ぶ。
「お前らはそこで戦っててくれ! 必ず戻る!」
そして俺は四匹の友達を引き連れて神々の山に走った。