20 19話 時空の崩壊
「何で……昔のことを思い出したんだ? しかもこんな時に……」
虚空を見上げて呟くパルキア。
「終わったな」
ディアルガは噴き出し終えたマグマを眺めながら言った。
「ん? ああ……」
考え事に没頭していたため、気の抜けた返事を返す。
「ほんとね」
「っ!?」
バッ、と振り返るディアルガ。その背中にはマグマに呑まれたはずのミレニィがいた。
「いやー。危なかったなあ……」
ニコニコ笑うミレニィだが、その顔に血が飛び散っているのは不気味だ。
「もし、私が身代わりを覚えていなかったらどうしてくれるのよ? この間抜けなデカブツがッ!」
ミレニィは『笑顔』という名の仮面を外し、ディアルガを罵倒する。
「もう怒ったわ。《ツイン・インパクト》を喰らいなさい!」
ミレニィの両足が閃いた──その刹那、目にも止まらぬ速度でディアルガの固い頬に横凪ぎの二連蹴りをいれた。
「グァッ!」
顎の骨が砕け、血が滴り落ちる。
パルキアはディアルガに攻撃が当たる可能性があるため、うかつに手を出すことができない。
「まだまだよ」
ミレニィは着地の際に踵落としで彼の足の甲を叩き潰した。
「じゃあね……時の神様!」
再び『笑顔』の仮面を装備したミレニィは、腰を低くして後ろに引いた右手に赤黒いオーラを纏わせる。
爆発じみた轟音が辺り一帯を包み、砂煙が巻き上がる。
煙が晴れると、パルキアは驚愕した。
ディアルガの堅牢な胸板を突き破り、ミレニィは拳で彼の心臓を破壊したのだ。
がくん、と崩れ落ちるディアルガ。
「てめえッ!」
相棒の死に激怒したパルキアはミレニィにハイドロポンプを放出した。
しかし、彼が発射するカンマ五秒前に移動するミレニィ。
「っと……。怒り任せの行動は良くないよ〜」
ミレニィは華奢な両足でパルキアの首を挟み込む。
「君は、何の神様なのかな? おっと、動かないでよ。動いたら首をネジ切っちゃうから」
ふふふっと楽しそうに笑うミレニィに恐怖を感じるパルキア。
「……教えてやら──」
ゴリゴリッ、という音と共に、パルキアの首は、ミレニィの宣言通りに切り落とされた。
「手応えが無いわぁ……」
溜息をついて次の階へ歩を進める。
「ん……? ああーッ! 遅いじゃないのー!」
「悪かったな。まあ、お前だけでどうにかなったんだし──」
階下から小走りでマッシブーンがミレニィに寄る。
「そーいう問題じゃなーいッ! か弱い女性を一匹で戦場にほったらかすっていうのが問題なのよゴリアス!」
ゴリアスと呼ばれたマッシブーンは困ったように頭を描いた。
「……お前はか弱いとは言えないぞ……」
「何よ。文句でもあるの?」
キッ、と鋭い目付きでゴリアスを睨む!
「い、いえ何でもございませんです」
暫く睨まれていたゴリアスだが、満足そうに鼻を鳴らしたミレニィはギラティナのいるフロアへと続く階段を登りだした。
はあ、と溜息をついたゴリアスはミレニィの後に続いた。
〜☆★☆★〜
「「……ッ!?」」
イーブイとエルが同時に体を硬直させた。
「どうした?」
ジャノビーが二匹の肩を揺らす。
彼らは互いに顔を見合わせて神々の山がある方向を見た。
「お前も感じたか?」
「ああ、もちろんだ」
生唾を飲み込んだイーブイとエルはブニャット達に告げる。
「ディアルガが死んだ」
「パルキアが死んだ」
「大丈夫?」
ルカリオが屈んでイーブイとエルの額に手を当てた。
「熱はないみたいだけど……」
「違う! マジでディアルガとパルキアが死んだんだ! 直に時空の概念が消え去る」
「つ、つまり?」
いまいち状況を呑み込めていないブニャットにソウタが魅せる。
「こういうことだろ」
彼は近くに咲く一輪の花に手を添えた。
すると、みるみるうちに可憐に咲いていた花が醜い茶色に変色していった。
「な、何したんだ!?」
ジャックが目を丸くして驚く。
「つまり念じれば誰でも時間を変化させられるんだよ。空間も同様に」
エルは自分の尻尾で地面を叩いた。
叩かれた箇所が砕け、底無しの闇が広がる。
「ほら。空間の存在が弱まり始めてるんだ。時空の使い手である僕らがいるから今は保ってるけど、僕らが死んだら……」
「全てが崩壊して闇に沈む」
エルが言うのを止めようとしたのを察して、イーブイが引き継ぐ。
「早くワイワイ海辺まで行かねえと」
ジャックが珍しく取り乱す。常時冷静な彼が取り乱すとは相当な緊急事態なのだろう。
「そうだね。あと少しなはずだから頑張ろうね!」
ルカリオが両手でガッツポーズを作る。
「うし、行くぞ!」
「「「おー!」」」
全員が拳を天高く突き上げた。
──あと、あともう少しで辿り着くんだ。気を引き締めろ!
イーブイは自分で自分の両頬をパン、と叩いた。