19 18話 神々の山は
亜空切断でカミツルギとマッシブーンを斬り伏せたパルキアは相棒の名を叫んだ。
「大丈夫か!? ディアルガッ! おい聞いてんのか!? ディアルガッ!!」
神々の山にも、ウルトラビーストによって侵略され始めた。
既に多くの伝説のポケモンが死んでいた。
残っているのはシンオウ四伝説とラティ兄妹のみだ。
「……あまり騒ぐな。ちゃんと生きてる……」
弱々しく言ったディアルガはよろよろと立ち上がった。
「お前こそ大丈夫なのか?」
「ッたりめえよ!」
「あらあら、自信がおありのようね」
階下から、ねっとりと絡み付くような君の悪い声が流れ込んできた。
ピクッと体を震わせて発声元を見やる。
「誰だ……」
「私はフェローチェ──」
「ウルトラビーストかッ!」
ディアルガは先手必勝ばりの速度で龍の波導を放った。
「──隊の隊長、ミレニィですわっ!」
華麗な前空転で回避してディアルガ達に微笑む。微塵の敵意も感じられない笑み。
しかし、彼女の心には猛烈な虐殺心が宿っていた。
早く殺したい! 切り刻みたい! という欲望がミレニィの心中を蠢いているのだ。
伊達に3000年もの時を生きてきた彼らにとって、このような色仕掛けは通用しなかった。
寧ろ、更なる警戒心を抱かせたにすぎなかった。
「一撃で極めるぞ」
パルキアがディアルガに囁く。こくりと小さく頷いたディアルガは口を大きく開けた。
しかし、彼の巨大な口の中央には野球ボール程度のエネルギー弾しか構成されていない。
「小さくねぇか?」
「本気を出したらこっちにまで被害がくるぞ」
それもそうか、と言ったパルキアは両手をクロスさせ、上体を軽く反らして、力を溜めている。
「オアアアッ!」
「ガアアアッ!」
二者の最大火力の亜空切断と時の咆哮がミレニィを襲う。
口元に微笑を湛えたミレニィは技の隙間を縫って、見事な回避をする。
彼女の背後で、当たらなかった二つの技がぶつかり、大爆発を引き起こした。
爆風に紛れて跳躍したミレニィは黒煙の中でキョロキョロ見回すパルキアの首筋をシザークロスで切り裂いた。
鮮血が飛び散り、ミレニィの白い顔を紅く染め上げる。
彼女の気分は高揚する。鉄臭く、しょっぱい血を舐め、ニヤリと笑う。
「流石にこれだけじゃあ死なないかー」
着地の衝撃を膝を曲げて和らげる。
「いくわよぉっ!」
血塗られた床を蹴り、ディアルガへ突撃する。
50センチを優に越える足でミレニィを踏みつける。
「おそーい」
スライディングで足の裏を滑り抜けて、尻尾を踏み、壁を蹴り、三角飛びを繰り出す。
「それぃッ!」
殺る気のある雄叫びではないが、ミレニィの撃ち出したトリプルキックの威力、速度は凄まじかった。
三連撃はディアルガの背骨をへし折り、その場に倒れ込ませた。
「ディアルガ!」
パルキアが絶叫する。しかし彼は何てことないように立ち上がった。
「時の神を嘗めるなよ」
ディアルガは怒りに目を真っ赤にして鼻を鳴らした。
「時の神、ね。いくら時間を巻き戻せるからといっても一撃で殺しちゃえば復活は無理だよねー」
「ふん……。口だけは達者な小娘だ」
嘲笑したディアルガは後ろ足のみで立ち上がり、浮かせた二本の前足を地面に叩きつけた。
地震ににた揺れがフロアを包む。
「避けてみろ」
ミレニィの足下が盛り上がり、赤熱したマグマが噴き出した。
「きゃっ!」
驚いて飛び退いたミレニィは尻餅をつき、続くマグマに呑み込まれた。
「こんなものか……」
やっぱりな、とでも言いたげな相棒の横顔をパルキアはある思考を働かせながら見詰める。
──時折こいつは強くなるが何でなんだ? 怒り、とかそういう感情的なものでどうにかなる話じゃあない……。
三千年の人生の中で、ディアルガはあまり強さに執着しなかったが、パルキアは異常だった。
〜☆★☆★〜
「なーアルセウスぅー」
若き日の──といっても700歳だが──パルキア少年は世界の創造神アルセウスに話を訊いていた。
「どうすれば強くなれるんだ?」
パルキアはキラキラ目を輝かせながらアルセウスに尋ねた。
困り果てた顔をしたアルセウスは溜息をついた。
「いいか、よーく見てろよ」
アルセウスは目を瞑って何かを念じ始めた。
すると無数の尖った岩の欠片を空中に浮かび上がらせた。
「い、今のってストーンエッジだよな!? 普通は地面をおもいっきり踏まなきゃ出ないのに!」
「いいか、今のはストーンエッジでも何でもない。ただの念力だ」
今のはストーンエッジではなく、念力だ。
パルキアは呆けたような顔して固まった。
「どうした?」
「やっぱアルセウスはすげえなぁ……。俺も負けねえからな! じゃなッ!」
彼は元気よく駆け出して技の練習に励むのだった。
「あいつは強さの意味を理解したのか?」
アルセウスはやれやれと首を振った。