18 17話 合流
「……イーブイ!」
後ろから誰かが俺を呼んだ……ような気がした。
「どうした?」
「いや、何でもない。それより急ごう」
「ああ」
駆け足で進む俺ら。
「待って! 待ってってば!」
追い付いたエルが俺の背中にダイブしてきた。
「ギャアッ!」
背骨がミシリ、と嫌な音をたてた。
「何で着いてきたんだ!」
「僕達、やっぱり君が心配だったから──ってソウタじゃん!」
謝罪しようとしたルカリオは、俺の隣にいるソウタを見て急に話を変えた。
「うわー、懐かしいなー」
「ようソウタ!」
「元気だったか?」
等々俺そっちのけでソウタを取り囲む。
「……ふん。寂しくないもんね」
唇を尖らせてそっぽを向く。
暫くして会話が終わったのか「行こうよ」、と声をかけられた。
「ああ。行こうか」
欠伸をして伸びをする。
「目的地まで後どれぐらいなんだ?」
「さあ」
ジャノビーの問いに俺は適当に答えた。
「何だよ、拗ねてんのか? まだまだガキだなぁ」
「は? 拗ねてねえし」
「強がんなっての」
面倒くさくなった俺は返答せずにさっさと進んだ。
「お、森を抜けたぞ」
三十分程歩くと、森を抜けた。
ふわっと柔らかな風が吹いた。
「潮の……香り?」
ルカリオが鼻をひくつくかせた。俺達もそれを真似る。
「本当だ。ってことは、ワイワイ海辺も近いんだね」
ブニャットが遠くを眺めようとするが、何も変わらない草原が続いている。
「あと少しだ。頑張ろうぜ」
ジャックが自分の拳を手のひらに打ち付けた。
「そういえばさ、敵いなくね?」
ふと立ち止まって辺りを見回す。
「いない方が良いだろ。ちゃっちゃと進めるし」
ソウタは、それがどうした、とでも言うかのように笑った。
「そうだけど……何か嫌な感じしないか?」
「心配しすぎだよ。もっと気楽に行こうよ。ウルトラホールに入ってから気を引き締めれば大丈夫だよ」
ルカリオが俺の頭上から宥めるように言った。
「だと良いんだけど……」
〜☆★☆★〜
「こ、こんなの防ぎきれないよ! あッ!?」
青い体液に染まった地面に足を取られ、リーフィアは尻餅をつく。
「いいいぃぃ────ただきぃぃぃぃ!!」
狂ったように叫ぶカミツルギがリーフィア目掛けて鋭くとがった腕を振り下ろした。
「リーフィア!」
しかし、リーフィアを庇ってブースターが前に飛び出した。
「二匹とも殺したらぁぁ────!!」
ぶぉん、と空気を切り裂くような音──と同時に紙のようなカミツルギの体に火炎放射を放ったブースター。
両者の技が激しくぶつかり合う。
火炎放射の直撃を受けたカミツルギは黒い燃えカスとなって散り散りに消えた。
「怪我は……ねえか?」
爆風で吹き飛ばされたブースターがリーフィアに尋ねる。
リーフィアは横たわる兄に近づき、重大なことに気がついた。
「うん……。で、でも、お兄ちゃんが!」
何と! ブースターのカミツルギの刃は彼の心臓に届いていたのだ!
首回りのクリーム色の毛が深紅に染まっていく。
「も、ダ……メみ、た……いだ」
ブースターは激しく咳き込んで吐血した。
「でっかく……なれよ……」
ブースターは泣きじゃくるリーフィアの頬に手を添えて息を引き取った。
「おにいちゃああああん!!」
敵陣のど真ん中で一匹泣き叫ぶリーフィア。兄の亡骸を抱き抱え、赤ん坊のように喚く。
その背後に忍び寄るマッシブーン。
マッシブーンは腰を低く落とした半身状態になっている。
「喰らえ、正拳つ──!?」
だが、マッシブーンは最後まで言えなかった。
「させないよん」
ゾロアークが尖った爪でマッシブーンの硬い筋肉質な背中を突き破り心臓を握り潰したのだ。
「全く……少女が悲しんでいるところを後ろから殺そうだなんて……。クズ男もいいとこだよッ!」
予備動作無しの後方宙返りで背後からの攻撃を仕掛けてきたウツロイドの背中側に回り込む。
「闇に沈みな、なーんてね」
ウツロイドの背中に触れ、《ディープシャドウ》を発動する。
ゾロアークの指を中心に広がる闇はやがてウツロイドを覆いつくし、一つの黒い立方体となった。
「ばいばーい」
闇の立方体は降下して地面に溶け込んで……消えた。
「リーフィア……行こう」
「ヤダ!」
「もうブースターは死んだんだ」
「お兄ちゃんは絶対に還ってくるもん!」
バチンッ!
ゾロアークはリーフィア頬を力強く殴った。
「いい加減にしなッ! ブースターはあんたを守るために犠牲になったんだ! その命を粗末にするんじゃない!」
半ば放心状態のリーフィアを引き摺って部屋に帰るゾロアーク。
戦争真っ只中なのに、家に帰ったリーフィアを休ませるためだ。
「ブースター、かっこよかったよ……」
友人の死体にウィンクをして家に入る。涙を堪えながら……。