16 15話 運悪し
「イーブイはどこにいるんだろう?」
エルが茂みを蹴散らしながら言った。
「僕の波導探知にも引っ掛かからないよ」
ルカリオは目を瞑って、念じる。しかし直ぐに目を開けた。
「その代わり、この先に敵が沢山。でも、ぴくりとも動かないんだ」
「死んでんじゃねえの?」
ジャノビーが木に成っていたリンゴを齧っている。
「いや、死んだら波導は消えるんだ。だから、少なくとも生きてるよ」
「おーい!」
「ほ?」
ジャックとブニャットが走ってきた。
「置いてくなよ!」
ジャックは荒い呼吸のまま言った。ブニャットも同様に肩が激しく上下している。
かなりの速度で走ってきたのだろう。
「ああ、ごめん」
頭を下げるルカリオ。続くようにエルが頭を下げた。
「いや、一度イーブイを裏切った俺達が悪かったんだからさ」
「ジャック……ブニャット……」
苦笑い気味のジャックとブニャット。
「さあ、行こう!」
エルを先頭に一行は進んだ。
「こ、これは!! ビースト達が浮いて止まってる!?」
ルカリオが波導を察知した所に来ると、大量のウルトラビーストが空中に浮いたまま静止していたのだ。
「これ、イーブイの《ストップ》だ。多分近くにいるよ」
エルが止まったマッシブーンに触れた。
「いたッ!南南西の方向にイーブイがいるよ! でも一匹迫ってきてる!」
「急げッ!」
全員が踵を返して走り出そうとした瞬間、背後からどさりと何かが落ちる音がした。
「逃がさないよ……」
なんと、《ストップ》の効果がきれたのだ。
「早くしないとイーブイが行っちゃうよ!」
エルが慌てふためく。
「さっさと倒してイーブイんとこ行くぞ!」
ジャックがサイコキネシスで襲いかかってきたマッシブーンの首を捻り切った。
辺りに青色の体液が舞い散る。
「全員突撃ぃ───!!」
リーダー格のフェローチェが叫んだ。【スワンナの一声】とでも言うのだろう。
どよめいていたウルトラビースト軍は雄叫びを上げてエル達に飛びかかった。
「最悪だ……」
ジャノビーがぼやいて敵を尻尾で凪ぎ払った。
尻尾をリーフブレード化させていたようで、敵は深い切り傷を負った。
「詰めが甘いよ!」
深傷を負った敵へ、ルカリオの強烈な波導弾による追撃。
吹き飛ばされた敵は木の枝に引っ掛かったり、地面に落ちたりと、原因は違えども全員絶命した。
「わりぃな」
「いや、君が一撃与えてくれてなかなったら僕も倒せてなかったよ」
「悠長に話してる暇なんかないぜッ!」
カミツルギが鋭い腕を振りかぶって跳躍してくる。
ルカリオは《波導棍》で受け止めた。一瞬での生成だったため、強度は弱く、暫くすれば折れてしまうだろう。
「ジャノビー……なんとか、してぇ!」
「ま、任せろ!」
ルカリオに当たらないように狙いを定めてリーフストームを放つ。
木の葉の渦に巻き込まれたカミツルギの折り紙のような体は跡形もなく引き裂かれた。
「それい!」
ブニャットは巨大な腹を活かして敵兵を蹴散らしている。
ある者は下敷きになって即死、またある者は弾き飛ばされて木に激突して死亡。
当たれば死ぬ。ブニャットはそんな感じの大量殺戮兵器なのだ。
「上空からの攻撃は対応できんはずだッ!」
ウツロイドがアシッドボムを投げた。
ブニャットはバク転で難なく避けて、付近にある木を蹴って跳躍した。
「なに!?」
「怪盗は嘗めないほうがいいわよ」
耳元──ウツロイドのどこにあるかはわからないが──で囁いて腹で地面に叩きつけた。
「君達の攻撃は一生かかっても僕には当たらないよ」
エルは余裕の表情で敵陣のど真ん中に立っている。
敵達はエルを殴り続けるが、全て彼を貫通する。
「この答えを知らないまま、君達は死ぬんだ」
パチンと指を鳴らして敵の足元に《空間回廊》を開く。
ひゅううううぅぅ……という音の後、ドボン! という音がした。
「行き先はマグマの真上だよ。最後の一時を精々楽しみな」