11 10話 小戦争
俺はお土産屋から盗ってきたバッグに、これまた盗ってきた食料(カップ麺・カレールー・乾パン)を入るだけ詰め込む。
これを六匹分。そうそう食料難にはならないだろう。
「さあ、出発するぞ。ワイワイ海辺までは当分かかるだろうけど!」
「ね、ねえ。エルの《空間回廊》じゃ行けないの?」
ルカリオが思い付いたように言った。
俺を除いた全員がエルの顔を見る。
しかしエルは、首を横に振った。
「僕の技は一度訪れてないと駄目なんだ」
申し訳なさそうに答えたエル。
「ま、歩いてきゃいつかは着くんだし気にするこたぁねえよ」
ジャックがバッグを背負い直しながら言う。
「さて、準備万端だな? 行くぞ!」
野良ポケ達に見送られて俺達は町を出た。
「野原を歩き続けるってのも変な感じだな」
ジャノビーが小石を蹴っ飛ばした。
「いつもだったらピクニックしてたり、カップルがいるんだけどね」
ルカリオが懐かしむように言った。
「へぇ……。ルカリオはゾロアークとよく来てたの?」
「まあ、ね。エルだってエーフィと来てたでしょ」
しかし、エルは答えずに立ち止まった。
「どうした?」
「何かが、近づいてきてる。多分……敵だと思う」
その一言で俺達はバッグを降ろして戦闘体勢をとる。
「おやおや、本当に歩いてるとはねぇ」
相手を苛つかせるような気持ちの悪い声。
こいつは誰なんだ?
黒い体色に、巨大な体。更に体の両端からはこれまた巨大な二対のハサミがついている。
腹部には切れ込み──即ち口が空いていた。
「あんた、ウルトラビーストか?」
「初対面にあんた、なんて使うもんじゃないよ。ま、名乗ってあげましょう」
「別にい──」
「私はアクジキング。王の命令によって貴方達を消しにきま──」
べらべら喋り続けるアクジキングの胸に、中くらいの石が命中した。
苦しそうに咳き込むアクジキングは怒りの形相で俺を睨んだ。
「貴様らぁ……喋っている時に邪魔をするなあああ!!」
凄まじい咆哮。それによって巻き起こる風圧に押し戻される俺。
「行けぇッ! 我が部下達よッ!」
アクジキングが指示すると、大量のウルトラビースト達が襲いかかってきた。
「いいか! 情けはむよ──」
振り向いて叫ぶが、全員、既に三匹以上を殺していた。
「言わなくても大丈夫か」
前を向き、中指を立ててアクジキングを挑発する。
「ガキがッ! 調子にのるなあああッ!」
腹部の口からシャドーボールを数十個放ってきた。
「うわわわわわッ!」
小さな体を活かして紙一重で避ける。
「次はこっちの番だ!」
目眩ましに龍の波導を撃ち、《三日月刀》を手に疾駆する。
「小賢しい!」
アクジキングが立ち直って再びシャドーボールを飛ばす。
だが、奴の前に俺は居なかった。
後ろだよ、と教えるほど優しくない俺は、無言の気合いと共にアクジキングのうなじを穿った。
「ギャァッ!」
短い悲鳴。
しかし、ウルトラビーストは別次元の生き物なのだろうから、うなじを削いだぐらいでは死なないかもしれない。
「念には念を入れてな!」
《三日月刀》の切っ先を心臓があるはずの場所に突き刺す。
剣先が柔らかい肉を突き進む感触に笑顔が止まらなくなる。
何だか気持ちいい。もっと殺したい……。
動かなくなったアクジキングの死体を蹴って跳躍する。
後列にいるウツロイドのぶよぶよの頭を真っ二つに裂き、着地と同時にフェローチェの首を切り落とす。
「最ッ高!」
狂気に満ちた笑みを浮かべた俺は、掴みかかってくるマッシブーンの足を斬って崩れ落ちる体を斜めに切り上げる。
「ははッ! はははッ! あはははははははッ!」
〜☆★☆★〜
「……ッ!?」
いつの間にか眠っていたらしい。
敵の死体を枕にして……。
寝ぼけ眼で周りを見回すと血や骨、臓器やらが散らばっていた。
「みんな派手にやり過ぎだっつーの」
苦笑いをして立ち上がる。
死体の広がっていない野原で全員座って談笑していた。
死体を踏まないように気を付けながら仲間の輪に加わりに行く俺。
しかし、俺を見た瞬間、彼らの顔は凍りついたかのように固まった。