10 9話 守り神
「ミミロップ、帰ってこないね……」
ニンフィアがサーナイトに言った。
サーナイトは優しく微笑んでニンフィアの頭を撫でた。
「大丈夫。ちゃんと帰ってくるから」
しかし、サーナイトは知っていた。
ミミロップが既にこの世に存在しないことを知っていた。
何故ならば訓練を積んだエスパータイプならば誰でも使うことのできる能力《生命探知》。
関係の親い者にのみ発動する効果で、対象の生死を確認できる。
即ち、ミミロップは、もう……。
「お兄ちゃん、入るよ」
リーフィアがブースターの部屋に入った。
「お兄……ちゃん?」
リーフィアは少々戸惑った。
というのも、ブースターは頭からすっぽり布団を被って隠れていたからだ。
「どうしたの?」
「俺は、殺しをしてしまった……」
「みんな殺ったよ。だから、落ち込まないで、ね?」 リーフィアが励まそうとした、その直後。
「うるさいッ!! お前に何が分かる……俺の、俺の……」
彼はそこで言葉を切った。次いで泣き始めた。
「…………」
何を言えば良いかもわからず、リーフィアは俯いて部屋を出ていった。
ツヨイネ宅の屋根の上にはシャワーズが一匹、《水弓》を構えて座っていた。
「……」
死体にも目が慣れたのか、血だらけの大地を見ても何とも思わなくなってしまった。
「ん、怪しい奴等ね」
おかしな形をした四匹組がうろついていた。
弓の照準を四匹に定めて狙い打つ。
次の瞬間、目を疑う出来事が起こった。
「消えたッ!?」
矢が当たる寸前、四匹がシャワーズの視界から消えたのだ。
瞬間移動のレベルではない。
「貴様が矢を射ったのか?」
黄色いのが尋ねた。シャワーズは生唾を飲み込み、挑戦的に答える。
「それが?」
「我々が気づかなければ刺さっていたぞ。見事だ」
「はあ、どうも……」
「……お前はウルトラビーストなのか?」
しかめっ面の牛のような奴が低い声で言った。
「ポケモンだけど。逆にあんたらは誰なのよ!」
「私はカプ・コケコ。コケコで構わない」
と、黄色。
「俺はカプ・ブルル。ブルルでいいぞ」
と、牛のような奴。
「僕はカプ・テテフ。テテフって呼んでね!」
と、ピンク色の──どこからどう見ても雌が言った。
「あたしはカプ・レヒレ。レヒレでいいわよ」
と、こちらは貝の中央に居座る人魚のようポケモン。
「わ、私はシャワーズ。よろしく──と言いたいところだけどテテフ、君は雄? 雌? どっちなの?」
「僕は女だよ〜。世間一般で言う僕っ娘かな?」
「そ、そうなの……」
「ねえねえ、シャワーズはさ、ツヨイネっていう探検隊の基地がどこにあるか知ってる?」
テテフが人懐っこい──いや、ポケ懐っこい笑顔で訊ねた。
「知ってるも何も、ここだよ」
シャワーズが尻尾で指し示した。
すると、ブルルがレヒレに怒鳴った。
「やっぱり俺があってたじゃねえか! 何が『ここはビースト達の住みかよ』だ!」
「そうだよー。僕だってここだ! って言ったのにぃ……」
テテフは頬を膨らませて呟く。
「テテフてめえ! お前だってレヒレに賛成してたじゃねえか!」
「うっせえぞ! 俺が殺しについて折角考えてたってのによー!」
自室の窓から顔を除かせたのはサンダースだった。
リーダーと副リーダーのいない今、彼がツヨイネのトップなのだ。
「あ、兄さん」
「おお、貴方がリーダーですか?」
ふわふわと浮いたコケコがサンダースの前に佇む。
「まあ、一応。臨時だけどな」
「こんな非常時ならば致し方ない。……どうか、我々に力を貸していただきたい」
「共闘、ってことか?」
「その通り! 俺達の力じゃあ、全てウルトラビーストを殺すのにも無理がある」
ブルルがコケコの隣に浮く。更にレヒレが左隣に移動する。
「だから、全世界最強の貴方達の力が必要なの!」
「お願い!」
テテフが顔の前で両手を合わせる。
「いいぞ。いやさー、俺達も主力がいなくて困ってたんだよねー。修理屋まで単騎で戦いに行くしさー。ま、よろしく頼むぜ」
にかっと笑うサンダースは、昔の子供の頃に戻ったような顔だった。