思い出の味
オデはベトベター。何をやっても駄目なベトベター。でもご主人様だけがオデを認めてくれる。なんて心優しい方なんだろうか。
そして、今はシンオウ地方の殿堂入り目指してポケモンリーグに挑戦しているところだ。
余談だがオデはパイルの実でできたポフィンが好きだ。あの酸っぱさがおいしいのだ。
「ほら、何ボーッとしてんの? 行くよ」
「ベトッ!」
オデは急いでご主人様についていく。
「いよいよなんだ。チャンピオンとのバトルだ。気を引き締めていくよ!」
オデを含めた手持ちのポケモン達が声を上げた。そして、チャンピオンの部屋へと足を踏み入れた。
「ようこそ」
「どうもシロナさん。今日で貴女がこの部屋にいるのも最後ですよ」
「あら、楽しみね」
シロナはにっこりと笑った。
「いつまでも余裕こいてられませんよ! ゆけっ! エンペルト!」
「ペルッ!」
ご主人様の投げたボールから勢いよくエンペルトが飛び出した。
「頼むわよ! ミカルゲ!」
対してシロナが繰り出したのはミカルゲだった。
「エンペルト!ハイドロポンプ!」
エンペルトの口から高圧水流が発射した。水流はミカルゲを吹き飛ばし、一撃で戦闘不能にさせた。
「! 確かに……余裕こいてはいられないわね」
シロナの顔から笑いが消えた。今あるのは、敵に向ける恐ろしい目だ。
「ロズレイド!」
「ロゼッ!」
ロズレイドがボールから飛び出した。
10分近く続く、激しい攻防の中、オデはただただボールの中から眺めているだけだった。
「くっ、ここまで追い詰められたのいつ以来かしら!」
シロナの最後のポケモンはガブリアス。彼女と共に育ったらしく、侮れない相手だ。
「こっちにはまだ2匹残ってますから」
ご主人様も随分やられて、残ったのはオデとフィールドに居るムクホークだけになってしまった。
「ガブリアス! ドラゴンダイブ!」
「ムクホーク避けろ!」
「ムクッ!」
ムクホークは上方向に羽ばたいた。だが、ガブリアスは着地寸前で地面に足をつけ、無理矢理方向転換してきた。
「そんな!」
ドラゴンダイブはムクホークの腹に突き刺さり、天井までぶっ飛ばした。勿論ムクホークはダウンし残ったのはオデだけとなった。
「頼むぜ! ベトベター!」
「ベト……」
「ベトベター。勝ったらパイルの実で出来たポフィンを腹がはち切れる程くれてやる! だから、諦めるなよ!」
「ベトべ!」
オデはこくりと頷いた。
「前祝いだ」
ご主人様はバッグから黄色い物を取り出した。
「受け取れ!」
放り投げられたポフィンはくるくると宙を舞い、オデの口に━━
『ふん』
『あれ? ポフィンは?』
オデは辺りを見回した。地面に落ちているという訳でもなかった。
『シロナが作ったやつの方がうめえな』
振り返るとガブリアスがポフィン食べていた。オデは頭に血が昇りガブリアスに突進していった。
『くっそー!!』
『馬鹿め』
ガブリアスのドラゴンクローがオデの体を引き裂いた。
『馬鹿はそっちだ! オデの体は斬っても分裂するだけだ! 喰らえ!』
オデはガブリアスの顔にへばりついた。引っ掻けば自分の顔が傷つくので抵抗ができない。
『どくどく!!』
最強の毒液をガブリアスの顔に、0距離で吹き掛けた。
『苦しいだろ! さっさと倒れろ!』
それに答えるかのようにガブリアスは大きくよろめき、そして倒れた。
「か、勝ったのか?」
ご主人様は信じられない、表情をした。
「……ええ、貴方の勝ちです。おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
ご主人様は放心状態のままシロナと握手した。
「ベトベター……ありがとう! 本当にありがとう!」
「ベトー!」
「あはは! ポフィンだな! よし、僕は約束を守る男だ。ちゃんと作ってやるからな!」
そして、何年もの時が経ち、ご主人様は結婚した。オデはご主人様の子供のポケモンになった。
また、その子も結婚し、子供を産み、オデはその子のポケモンとなった。
因みにオデは体の悪い部分を切り取って新鮮(?)なヘドロに入ると健康になるのだ。つまり、半永久的に生きられる。
そして、孫が産まれた年に初代ご主人様は亡くなったそうだ。
最後に一つだけポフィンを残して。
オデは……死ぬまでこの味を忘れることはないだろう。