51話 神器vs神器
「やああああッ!」
気合いの籠ったルカリオの右ストレートはエンニュートの腕を交差する防御を砕いて吹っ飛ばした。
ズカアアアン! と、壁に大きな凹みが生まれる。
「キエエエッ!」
エンニュートが吼えた。そして両手を地面に着き、口から火を吐いた。
「さあ、いきなさい! 《火災竜》よ!」
炎でできた竜巻はルカリオ目掛けてかなりの速度で進んでいく。
彼は横っ飛びに躱す──が、竜巻は突如進路を変え、ルカリオにヒットした。
「うああああッ!!」
ルカリオが発する苦痛の悲鳴。初めて聞いた。彼が叫ぶなんて。
竜巻の中心からルカリオが吐き出された。
「ぐ……」
右肩から落ちた彼は、よろよろと立ち上がり、痛む右肩を押さえた。
「痛いけど……。火傷はしてない……?」
ルカリオは体のあちこちに目をやるが火傷特有の膿、水ぶくれは見当たらない。
「何故だ!《死怨の風》!」
エンニュートが空気を切り裂くように手を垂直に降り下ろした。驚くべきことにそこから風で、できた薄紫色の剃刀が飛び出した。
「うわッ!?」
ルカリオは横にずれたが頬を浅く切ってしまった。
「毒で苦しみなさい!」
エンニュートが高らかに笑う。が、ルカリオはきょとんとした表情だ。
「え? 苦しくも何ともないけど」
「何故だ! 何故──! そうか、お前は流星グローブを持っているな」
「ん、そういや忘れてた」
ルカリオは両手に嵌まっている二対のグローブを見た。
「状態異常が効かないなら貴女は怖くない」
ルカリオがそう言ってる歩き出した。
「何も、状態異常だけが勝負じゃないのよ!」
四つん這いになったエンニュートが高速で接近してくる。尻尾で足を払って馬乗りになる。
「いくら火傷にならなくてもこの距離だったら焼け死ぬでしょ!」
エンニュートの喉奥からチラチラとオレンジ色の光点が煌めく。
「手はちゃんと押さえましょうね!」
ルカリオが左手で彼女の頬を薙いだ。今まさに放たれようとしていた火炎放射はルカリオの耳ギリギリの所を掠めた。
「熱っ!」
火傷しなくとも熱いようだ。
「もう終わりにしよう」
ルカリオはエンニュートを睨むと一瞬でだした《波導棍》を強く握った。
ルカリオは棒を中段に構えて突進した。エンニュートの放つ《死怨の風》を彼はいとも簡単に弾き返す。
「さよなら」
斜め右下から振り上げた棒はエンニュートの胸に衝突した。
「ぐあああッ!」
派手にぶっ飛んだエンニュートの頭から風のティアラが落ちた。
「やった、神器が全部集まったぞ!」
ルカリオがティアラを拾って頭上に掲げる。
「確か次の目的地は四国のど真ん中にある天空城ね」
師匠がルカリオの手からティアラを奪った。そしてそれを自分の頭に乗せた。
「どお? 似合うかしら?」
黙りこくる俺達。ミミロップが口を開きかけたが直ぐに閉じてしまった。
「何よ! 感想ぐらい言いなさいよ!」
怒った師匠が俺の胸ぐらを掴んで持ち上げた。
「ある意味な女王様だよね」
ゾロアークがルカリオに耳打ちした。
「分かるかも」
隣にいたブースター兄ちゃんは大きな耳を活かしてその会話を盗み聞きした。
「何よー、言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ」
「ある意味女王様だね、って」
ルカリオがびくびくしながら言った。まるで意味を悟られ、殴られるのでは、と。
「そ、そうかしら?」
気を良くして照れる師匠。その拍子に俺を取り落とした。
「鞭を持って仮面着けたら完璧だよね」
シャワーズ姉ちゃんが呟く。が、当の本人は聴こえていない。
「さ、出発するわよ!」
「はーい」
師匠の後に着いて俺らは城を出た。
船に乗り、ミミロップが進路を合わせる。
「皆! 行っくよー!」
船のアクセルを踏み、天空城を目指して、飛び立った。