49話 女王に言いたいこと
「ごめんください」
扉を開け、城に入る俺ら。すると、ヒトカゲのような奴が来た。
「ようこそ、エンニュート様の城へ。ご用件は?」
「下界から来たんです。それと、エンニュート王とも話してみたくて」
「エンニュート様は雄ではなく雌です。それと私はヤトウモリでございます」
「よろしく」
差し出された手を取り、握手を交わす。
「では、こちらへ」
ヤトウモリに連れられ王の間に入室する。入って吃驚、言葉を失った。
壁、床、シャンデリア、玉座、その他部屋にあるもの全てがダイヤモンドでできているのかのように煌めいている。全面が鏡のようにもなっていた。
「すっげー……」
ジャノビーが顎が外れそうなぐらいに口を開いて見いっている。
「凄い……。こんなの、私の家にも無いわ」
ルミナが床に映る自分の顔を見ながら言った。
「一体、いくらかしら?」
金に煩いエーフィ姉ちゃんが計算を始める。
こほん、と一つの咳払い。俺達は音のなる方を見る。
ダイヤモンド製の玉座に凭れるエンニュートがこっちを見ている。
ヤトウモリが三倍位の大きさになって、二足歩行になったような見た目をしている。
「すいません、挨拶もせずに」
「良いのですよ。初めて来た者は皆、心を奪われるのですから……」
微笑するエンニュートは、優しげに振る舞っているものの、どこか威圧感がある。
「貴方達の噂は聴いておりますわ。なんでも、神器を集めているそうね。今、幾つ集まっていますの?」
「三つです」
「あら! ならこの風のティアラで最後ね!」
「できれば……譲っていただけないでしょうか?」
「譲ってもいいけど、いつ還ってくるか分からないのよね……」
「返ってくる?」
「あら? ご存知ではないの? というか、貴方達は神器を集める意味を知ってらっしゃるの?」
俺らは互いに顔を見合わせて、いや? とかぶりを振った。
「いいですか」
エンニュート女王は溜息混じりに話し出した。
「太陽のペンダント、月の指輪、流星グローブ、風のティアラ。この四神器には所有者に良い効果を与えてくれる装備品です。それと同時に鍵の役割も担っています」
「鍵? どこかの鍵?」
「ええ、四つの島の中央に四神器を持っていけば【天空城】が姿を現します。その奥にある扉に窪みが四つあるのでそこに、神器を嵌め込むのです。すると──」
女王は意味あり気に一呼吸置いた。
「扉は開かれ、【空の心】通称、【エリアルハート】が眠っています。それをお持ちの飛行石にくっつけるとスカイランドの更なる頂へ進むことができるのです。【夢幻城】へ。夢幻のように美しい場所らしいですわよ」
「ほお……」
完全に話の虜になっているツヨイネとルミナ&フォッコ。
「さて、ここからが本題ですわ。天空城にを納められた神器は、所有者、所有者が死んでいる場合は血族の者に還ってきますわ」
「じゃ、じゃあルーファとシルクって奴知りませんか?」
「ああ、その子達に神器を渡して、還ってきたのは五年前でしたね……。意外と早かったわ」
「普段はどれぐらいかかるのですか?」
「二十〜三十年ぐらいですかね……。一説によれば『下界からの旅人来る時、神器はその元に集まらん』と。つまり、二、三十年経っていなくても下界から旅人が来れば還ってくるということですわね」
「時系列がおかしいぞ」
「え?」
サンダース兄ちゃんが言った。
「父さん達が出ていったのは十年以上も前だ。なのに、何で五年なんだ?」
「それは父さんが飛空艇を手に入れるのに手間取ったからじゃない?」
サンダース兄ちゃんの疑問もシャワーズ姉ちゃんによってあっさりと解消された。
「それと、言いたいことがあるのですが、よろしいですか?」
俺は城に入る前に決意したことを実行することにした。
「ええ、何でも訊いてちょうだい」
「城下町、というか村のことで、なぜあのようにボロボロで村人達は飢えに苦しんでいるのですか?」
「ああ……それね。あの村にはちょっとあるのよ」
──何だ? 犯罪者達が閉じ込められているのか?
「ちょっと、来てくださる?」
エンニュート女王が手招きで俺を呼ぶ。彼女との
距離は約三m。が、まだ足りないようで、「もっとよ」と言われた。
耳打ちできるぐらいに接近する。
「それはね──ただの奴隷達よ」
「な!?」
ばふぅ、と紫色の煙を顔に吹き掛けられる。途端に体から力が抜け、床に俯せに倒れた。
「てめぇ!!」
エルが怒りに吠える。
「動くな! この子を死なせたくないでしょ?」
ねっとりとした猫なで声で言う。意識が朦朧とする俺は不気味な部屋に連れてかれた。
カビ臭い匂いが鼻をつく。カビの匂いに混じって別の匂いもする。
血だ──! なるほど、ここは拷問部屋なわけだ。
なら俺は拷問されるのか? まあ、誰かが助けに来てくれるでしょ!
今は楽天的な俺だが意識がはっきりしてくると事の重大さに気づくのだった。