48話 パン争奪戦
「ほいほい、着いたよー」
ミミロップが到着を報せる。俺はロコンに肩を叩かれるまで気づかなかった。
「うわ……。ひでえ有り様だな……」
サンダース兄ちゃんが城下町──いや、村を見て言った。
村は全体的に見て、アンバランスだった。まるで奴隷が住んでいるかのような民家、その奥にある巨大で綺羅びやかな城。
貧富の差が激しすぎる。
「風の国【フィーク】へようこそ、だってさ」
アブソルが村の門の前に立っている看板を読んだ。
「いつまでもこんな所に居ても仕方ない、行ってみよう」
俺を先頭に、村に足を踏み入れる。ひっそりとしていて、かなり不気味。視線は感じるが、姿は見えず。
「ね、パンいる?」
「へ? うんまあ」
急にアブソルに問われ、曖昧な返事を返した俺。
アブソルがパンの袋を開けた瞬間、仄かな甘い香りが辺り一体に広がった。
直後、民家の窓から沢山の住民が飛び出してきた。皆痩せこけていて、干物一歩手前です、って感じ。
「な、何よ」
アブソルが尋ねる。住民達から返ってきたのは想像通りの言葉だった。
「め、飯……」
一番最初に飛びかかってきたのは、ヒコザル。素早い動きだが、ひらりと躱す。
「飯──────!!」
突如として遅い来るポケモン達。極度の空腹でダンジョンの中にいるようなポケモンと同じようになっているのだろう。
「わ─────!!」
当然逃げる俺達。しかし、振り返ると、いるのはアブソルだけ。
「み、皆は!?」
「パン持ってないから追い掛けられてないよ」
「って言うかさあ、パンあげれば追い掛けられないんじゃね?」
「駄目! これは季節限定のパンなの!」
「どこで買ったんだよ」
ぬかるんだ地面を飛び越える。そこで先頭の奴が足を滑らせ転倒。それに引っ掛かって転ぶ者が続出する。
「星の国。最後の一個だったの」
「なら一口で食えば終わりじゃね?」
「ヤダ! 私、乙女だからそんな大口開けて食べる何て恥ずかしいことはできません。それに味わって食べたいし」
「何が乙女だから、だよ。敵をバリバリ倒してるとこからして乙女じゃねーよ! どーせその一個も脅して手に入れたんだろ」
「違います〜。五割の力で殴り飛ばしました〜」
「ほら暴力で解決する。お前は乙女じゃねえんだよ」
民家の上に飛び乗り、一息つく。屋根から下を覗くとポケモン達が群れて叫んでいる。
「はー……。これで大丈夫だろ。さて、半分く──」
アブソルの方を向くと半分以上が口に収まっている。
「ごふぇんね。ふぁ、ふぉっきーぐぇーむれもすう?」
「は?」
アブソルは溜息をつくと俺の額に手を翳した。
──てか、溜息つきたいのはこっちなんですけど!
「!」
頭の中にアブソルの声が響く。
──ごめんね。あ、ポッキーゲームでもする?
「誰がするか」
再び脳内にアブソルの声がする。
──じゃあ、最後まで食べちゃうね。
「ま、待って! 誰も見てないよな」
アブソルはぐるりと周りを見渡すと人差し指と親指を合わせてオッケーサインをだした。
俺はゆっくりとアブソルの方に寄ってパンを食べ──ずにアブソルの口から引ったくって口に放りこむ。
──間接キスの方は、まあ気にしない気にしない。
「ちょ、ちょっと! ポッキーゲームするって言ったじゃない!」
「……んぐ。悪いな。愛するポケモンが現れるまでファーストキスは誰にもあげないよ」
飲み込んでからにやりと笑って言う。
「おーい、パンは食っちまったから諦めてくれ」
ポケモン達はこの世の終わりだ、というような顔をすると、とぼとぼ家に帰っていった。
「さて、戻るか」
アブソルと俺は屋根を伝って城の門の所に着いた。城門の前には全員が集結していた。
「よし、揃ってるな。行くぞ」
俺は王に一発、ガツンと言ってやることにした。ツンベアー王の助言など忘れて。