47話 出航
「んー……」
現在時刻は午前八時。
「あ、時間が分かるようになったぞ。──わひゃ!?」
布団の中で何かが動いた。多少だるい体を無理矢理使って布団を剥がす。
「姉ちゃん……」
正体はグレイシア姉ちゃんだった。昨夜かどうかは分からないが、座ったまま寝るのは辛くなって布団に侵入してきたのか。
何はともあれ本調子──とまではいかないが一応元気だ。
皆を捜すべく、ベッドから降りて部屋から出る。
「やっぱ、城って慣れないな……。どこ歩いてるか分かんないし」
ぶつぶつぼやきながら歩いていると、師匠のスカートの裾が見えた──気がした。丁度角を曲がったところだったので確証は持てないが、行ってみる価値はあるだろう。
小走りで廊下を抜け、一つのドアの前に辿り着いた。扉の奥から賑やかな声が聴こえる。
「ここか……」
ドアノブを回して、ゆっくりと開ける。そこには皆が居た。話したりしているが唯一、リーフィアだけがベッドに横たわっている。
「リーフィア……。昨日は悪かったな」
「ううん、私の方が悪かったよ。たかが技一つで怒っちゃってさ」
「お兄ちゃんの蹴りで肋が折れたんだ。でも、サーナイトが治してくれたから大丈夫だよ」
リーフィアは元気だ、とアピールするためにニカッと笑った。
「なら、良いんだけど……」
「じゃあ、出発しようよ。次の島に」
そう言ってリーフィアがベッドから降りた。すると、少し胸の辺りを押さえた。
「まだ、痛いのか?」
「いや、大丈夫……」
俺が見守るなか、ふらふらとブースター兄ちゃんの所に行った。
「おんぶしてー」
「おう! 任せとけ!」
リーフィアを背中に乗せ、部屋から出ていった。
「俺も行くか」
ジャノビーがルミナと一緒に部屋を後にした。それに続いて全員が退出した。
その後、部屋から出て、ドアを閉める。俺の次の目的地は、飛空艇ではなく王様の所。ルーファとシルクについて訊いておかなければならない。
「王よ、お伺いしたいことがあるのですが」
ツンベアー王はコーラを飲んでいるところだった。
──ちくしょう。美味そうに飲むなあ……。そう考えているうちに飲み干したようだ。
「何かね?」
口元を拭いながら訊かれた。
「ルーファとシルクっていう二匹組のポケモン知りませんか?」
「ルーファとシルク? むぅ……そういやいたなあ。神器を集めてて、何故集めている? と訊いたら『全てを終わらせるために』と素っ気なく返されてのぉ」
「行き先とかは分かります?」
「いや、何一つ教えてくれなかったわい」
「そうですか、ありがとうございました。あ、もう一つ、太陽、月、星、と三つの国に行ったんですけど他にあります?」
「ならば風の国じゃな。神器があるはずじゃ。ここから北西に真っ直ぐ進めば見つかるはずじゃ。だけど気を付けるんじゃぞ。あそこを治めているエンニュートという奴には逆らってはいかんぞ!」
「分かりました。では、俺はもう出発します」
「絶対だからな!」
念を圧され、再度分かりました、と告げる。
玄関まで差し掛かった時、グレイシア姉ちゃんを忘れていることに気づいた。
「イーブイ────!!」
約三m離れた距離からの飛び付き。見事にキャッチしたが、そのままドアを突き破って階段を転げ落ちた。その際に体の節々をぶつけた。
「はー……滅茶苦茶いてえ……」
打撲した箇所に癒しの波導をあてる。通行人達がちらりと俺達を睨む。
「おい、姉ちゃん。危ないだろ」
「そうね……。お陰で腰が超痛いわ……」
姉ちゃんは反り返って腰の骨を鳴らす。
「行こうか」
町の様子は太陽の国に勝るとも劣らずだった。いい具合に賑わう。子供達がキャッキャッと走り回る姿も見える。
「平和だな」
「そうねぇ……」
ぼそっと言うと、姉ちゃんも似たような口調で返した。
歩くこと七分。飛空艇に到着。全員出発の準備は万端なようだ。
船に乗り込むやいな、行き先をミミロップに伝える。
「出航だー!」
今日は絶好の船出日和──ではなくどんよりとした雲が太陽を覆い隠している。そのせいで少し肌寒い。
そんな空を見上げていると心無しか憂鬱な気分になる。
「エンニュートに気を付けろ、か。一体どんな奴なんだか……」
雲に隙間は無いかとぽへーと眺める。思考はほぼ停止状態。
きっと、風の国に着くまでこの状態だろう。