46話 秘技
ツンベアー王は石板を俺達に見せる。
「読めないから何と書いてあるか分からんのだ。が、お主らならわかるか?」
石板には見たこともないような複雑な文字が書かれている。しかし、一文一文の意味が正確にわかった。
「リミット=カタストロフ?」
「え?」
全員の目が一斉に俺を見た。
「ここには、自分の覚えている技を限界以上まで超絶強化。他のポケモンに力を分け与える事が出来る。技をある程度使うと使用者、分け与えられたポケモンは副作用で使える技の威力が激減する、って書いてあるよ。補助技かな」
「別の読み方は限界破滅ね」
むくりと起き上がったアブソル。顔色はいつも通りになり、元気そうだ。
「大丈夫か?」
それでもやっぱり心配なので訊いてみる。
「うん! 村から出た後、元気になったんだよね」
「ふむ、お主らならば使えるようじゃな。初代の王が残した技じゃ。この字が読めれば技が使えると言っておった」
「何で私には読めないの!」
リーフィアがロコンをぽかぽか叩く。
「何でリーフィアも使いたいのよ」
「だって、お兄ちゃんはリミッター使えて、アブソルは限界突破、私もリミッター。仲間外れにされてる気分よ!」
「いいか、リミッターにこういう副作用つきの技を重ね掛けしてみろ。終わった後、死ぬぞ」
俺はなるべく真剣な表情で危険性を伝える。
「やだやだ! 一緒がいい!」
始まった……。メンバーの中で一番危ないのはリーフィアだ。
別名、【災厄を招く駄々っ子】。
過去に一度、ニンフィアとリーフィアが作文コンクールに応募したことがある。その時にニンフィアが大賞を獲得し、トロフィーや賞状を貰った。
対してリーフィアは何も貰えなかった。
そこでぶちギレたリーフィアは自分の部屋を破壊し、家を飛び出した。行き先は三十km離れた海岸だった。
当時探検隊ではなかった俺達は依頼した。その二日後に憔悴した姿で発見された。
家に帰ってくるなりブースター兄ちゃんがすっ飛んできて、こっぴどく叱られてた。
「リーフィア、落ち着け。な?」
「ずるい!」
突然、稲妻のような速度のパンチが放たれた。
「うおっ!?」
ギリギリ回避するが、頬を浅く切られた。
「よぉ〜し分かった。リミッター解いて《限界破滅》もつけてやんよ」
言い終わるやいなリーフィアが蔓を伸ばしてきた。
リミッター+限界破滅のお陰でほぼ止まって見えた。パシッと掴み、一気に手繰り寄せる。
「悪いな」
家族は家族でも戦闘になればそんなこと知ったこっちゃない。
足を振り上げ、リーフィアの腹を蹴飛ばす。背中から落ちそうな程に反った体勢から後方宙返りを決め、空中にいる彼女へ波導弾を投げる。
「オオオッ!!」
短く吼え、飛び上がり、アイアンテールでリーフィアを床に叩き落とす。大理石でできた床に亀裂が入り、砂塵が巻き上がる。
「はッ……はッ……」
華麗に着地するが、直にぺたんと座り込んでしまった。
僅か一分で疲れが生じ始めた。これが、技の効果か……。さっさと勝負決めなきゃやられちまう……。
大きく息を吸い込み、疲労をぐっと我慢する。
砂煙の中からゆらりと蠢くシルエットが見えた。
「お兄ちゃんばっかりずるい──!」
滅茶苦茶に泣き叫びながら突っ込んできた。リーフブレード化している尻尾を根元から掴む。
「いい加減に……しやがれッ!」
頭の天辺に七割の力で拳骨を叩き込む。ガツン、という鈍い音がして、リーフィアは気を失った。
──頭に巨大なたん瘤をつけて。
「俺も、限界……」
体中の骨が悲鳴を上げている。後ちょっとでも戦いが長引いていたら、どこかしらの骨が折れていただろう。
〜☆★☆★〜
「……」
次に目を開けた時、俺は天涯つきのベッドに寝ていた。
だるい……。本当にだるい。動きたくない。これが副作用か……。使うのはマジでヤバイときだけにしよう。
そう心に誓う俺だった。
「あ……姉ちゃん」
首だけ動かして回りを見ると、椅子に座ったグレイシア姉ちゃんがうつらうつらしていた。
「姉ちゃん……」
呼んでも返事がない。一体何時なのだろう? いつもだったら秒数まで正確にわかるのに……。
「もう一回寝れば治るか……?」
もう一度、目を瞑り夢の世界に飛び込むのだった。