45話 様子見
背後から話しかけられた俺は、反射的に波導弾を創っていた。
「誰だ!」
「俺だよ俺。フォッコだよ」
アブソルをゆっくりと床に寝かせ、フォッコと向き合う。
「何の用だ」
「そう怒んなって。ただ、調査に来たんだ」
「調査?」
「ああ、クレセリアについてな。奴は数十年に一度、眠りにつく。その眠りを守るのが【女神一族】」
フォッコは説明してくうちに真剣な顔つきになっていく。頼んでも無いけど。
まあ、物語は好きだから最後まで聴くことにした。
「クレセリアは毎晩毎晩町へ繰り出すと、さの町で一番幸せな夢を見ている奴の精神を喰うんだ」
「精神を喰う? それって、食われると、死ぬ?」
「いや、肉体的には死なないが精神的にしぬ。つまり廃ポケだ。女神一族に対抗する【女神狩り】というレジスタンスが結成された。リーダーのダークライを筆頭にな。そして十年前、女神一族と女神狩りの大戦争が起こった」
「大戦争……」
俺が繰り返すと、彼はこくりと頷いた。
「で、女神狩り最後の生き残りが俺だ。一族側にも生き残りが一匹いる。このペンダントは女神一族が半径一km以内にいると光だす。今、輝きが凄いんだ」
フォッコの胸にかけられたペンダントは一等星を彷彿させるように煌めいている。
「で、クレセリアは一族の末裔に自身を封じ込めたビー玉を埋め込んだ」
言いながら、フォッコはペンダントを一匹一匹翳している。アブソルに翳した瞬間、ペンダントが眩い光を放ち、粉々に砕けた。
「てめえが生き残りか!」
俺や、メンバーは足に接着剤がついたかのように動くことが出来なかった。
「皆の、仇だ!」
大上段に振り上げられた剣が、アブソルを切り裂こうとする。が、剣の腹に小さな小石が当たり、軌道を逸らした。
「誰だ!」
今度はフォッコが叫んだ。
「サタン参上、なんてな」
「サタン……」
フォッコが怨めしそうに睨む。
──こいつら知り合いか?
「何で止めた!」
「この子はまだ覚醒途中だ」
「だからどうした! 悪の芽は早めに刈り取っとくんだ!」
「頼む……。俺はまだこの子を殺したくないんだ。なんならこいつらの旅についてけ。もし、その最中にアブソルが覚醒したら切り殺せばいいさ」
「ちッ……あんたの頼みなら、しょうがねえな」
渋々と承諾したフォッコは背中に剣を納めた。
「ねえ、これってどういう事なの?」
コップ探しの旅から漸く帰還したリーフィアが状況を知らずに尋ねた。
「アブソルが女神一族の末裔だったってこと」
一言で解説を済ます。リーフィアまだ理解していないようで首を捻った。
「私は……何も……知らない……」
アブソルが弱々しく言った。
「てめえ嘘つくんじゃねえ!」
「本当よ……」
「アブソル、ちょっとごめん」
サタンがアブソルの額に手を乗せると、両者とも動かなくなった。短い沈黙。
「……成る程」
サタンが顔を上げた。
「アブソルは記憶を封印されている」
「封印?」
フォッコが訝しげにアブソルを見る。
「ああ、最後の生き残りとして体内にビー玉を埋められ、記憶を封じられたのだろう。だとしたら何故ポケトピアに居たのか……」
「おい、サタン。お前は未来の俺だろ。この事態の行く末を知ってるはずだ」
「流石、鋭いね。でも、前に話した通り、未来のことは話せない。だからヒントをあげよう」
快活に笑うサタン。何か、裏がありそうな雰囲気だ。
「四神器を探しだして、俺に会いに来い。ってな訳であばよ!」
サタンは空転すると煙となって消えた。
「俺の将来はマジシャンかもな」
ぽつりと呟く。俺は辺りを見回してめぼしい所は無いようだから、城に帰ることにした。
「よっこらせ」
アブソルを担ぎ上げ、帰路を辿る。薄暗い坑道を抜け、玉座の裏に出た。
「戻りました」
後ろから話しかけると王はビクッと体を震わせた。
「お、脅かすな!」
「あー、すいません」
「主らに礼がしたくてな、何しろ国を救ったのだから神器をあげよう! と言いたいとこだが生憎あげてしまっての。代わりに秘技を伝授しよう!」
秘技、という単語に俺の心は惹かれた。