44話 女神の一族の村
「よーし、城に行こー!」
リーフィアが拳を突き上げて言った。寝起きにも拘わらず、一体どこにこんな元気があるというのか。
妹LOVEのブースター兄ちゃんでも、流石にこのテンションにはついていけなかった。
そのため、うん、ああ、としか返答しない。暫くすると、適当にあしらわれてことに気付き頬を膨らませて、ずんずん一匹で進んでいく。
追いかける気力も無い彼はただただ同じ速度で歩き続けるだけだ。
〜☆★☆★〜
それから十分。城門に到着。門番はまだ寝惚けているようで、そっちは海だぞぉ……、と訳のわからないことを言った。
「何で皆、こんな状態なの? 町にも誰も居ないし」
「きっと、全員眠っていたんだろうな。そのうち活気づいてくるでしょ」
ルカリオが投げ掛けてきた問いというボールに推測を付け足して返球する。
「お邪魔……しまーすッ!」
師匠とミミロップの二匹がかりで重い城門を開ける。
「何でこんな重い物をレディで開けなきゃならないのよ!」
俺の胸ぐらをつかみ、ブンブン振り回す。俺へ文句を言う時は毎度これだ。
「師匠、力瘤作ってみてよ」
いいけど、と言って腕を曲げ、力を込める。ぽこん、六cm程の瘤が盛り上がった。
「普通の女性はもっと小さいもんだよ。残念ながら筋肉ガールって呼ばれても怒れないよ」
「何よ、筋肉ガールって」
「ご説明致しましょう!」
とスマホ片手に決めポーズをとるブラッキーが前に躍り出た。コイツの頭には雑学がぎっしり詰まっている。
「筋肉ガールとは、力瘤が五cm以上あり、且つ自分の体重の半分以上ある物を持ち上げられる奴の事です! 因みに、ぶりっ娘供には筋肉バカと呼ばれてますがお気になさらず」
「師匠、体重は?」
「い、言うわけ無いじゃない!」
「五十八だよ」
師匠の代わりに、ミミロップが答えた。
「ルカリオは?」
「確か、四十八だったかな……」
ルカリオは少し迷い気味に言った。
「持ち上げてみてよ」
「しょ、しょうがないわね。特別よッ!」
師匠はルカリオの脇に手を入れ、持ち上げた。親が、幼児を抱き上げるように。
「おお!」
すんなりと浮くルカリオ。
「おめでとう。筋肉ガール認定だ」
ブラッキーが拍手した。それに続いて皆も手を叩く。
「ね、早く中に入ろうよ。王様がめっちゃ不機嫌そうな顔してるよ」
ゾロアークが城の中を指差した。
という訳で王室に入る俺達。内装は王道RPGの城って感じ。
「ようこそ、星の国へ。私はツンベアー。この国の王だ」
「どうも。質問よろしいですか? 何でこの国に来た途端、寝てしまったんですか?」
取り敢えず一番の謎を尋ねる。
「それが分からんのだ。思い当たる節があるとすれば、城の裏側にある女神一族の村の跡地で何かがあったか」
王は顎に手を添えながら言った。
「女神ってクレセリア?」
「おお、そいつじゃそいつ。クレセリアは月の女神と呼ばれ、眠りを司る者でもあったんじゃが……」
「村の跡地を見せてもらってもいいですか?」
「うむ、よいぞ。王座の後ろの扉から行けるぞ」
「ありがとうございます」
会話を終了し、王座の後ろにあるドアを開ける。暗く長い坑道に繋がっていた。それに少し肌寒い。
「……うぅ。お化けなんてなーいさ……」
グレイシア姉ちゃんがアブソルの背中にしがみつきながら自分を励ますように歌っている。
「明るくなってきたな」
緩やかなカーブを曲がりきると光が射し込んできた。
「ここが、村か……」
城に続き、こちらもRPGあるあるの崩壊した村だった。
家は崩れ、木は枯れ、折れている物もある。
「あ、神殿だ」
村の中央にはギリシャのパルテノン神殿を思わせるような建物があった。
「行ってみるか」
壊滅した村を眺めながら進み、神殿へ到着。
どさっ、と誰かが倒れる音がした。振り向けばアブソルが倒れているじゃないか。顔色が悪く、呼吸も荒い。
「おい、大丈夫か?」
「んん……気持ち悪い……」
ふらつきながら少し移動すると嘔吐した。
「だ、大丈夫かよ!?」
背中を擦るが、尚も吐き続ける。
「……全部出しな」
アブソルに告げ、周りを見渡す。
「コップみたいの無い? 無かったら民家を漁ってきてほしいんだけど。あ、姉ちゃんは残ってて」
真っ先に走り出したシャワーズ姉ちゃんを呼び止める。
何でよ、と彼女は不満そうに言った。
「水がいるからだよ。この際口から出た水でもいいからさ」
「あったぜ!」
ジャノビーが息を切らして戻ってきた。
「姉ちゃん、ちょっと洗ってくれない?」
「はいはい」
溜息混じりに水鉄砲で洗浄。綺麗になったらもう一度、水鉄砲で水を満たす。
「ほら、水だ。うがいしな」
アブソルは水を口に含み数回ゆすいだ。
「ちょっとずつで良いから飲みな」
弱々しく飲むアブソル。暫くすると呼吸も安定した。
「お前ら何してんだ?」
背後から何者かに話しかけられた。