42話 敵の敵は味方
「ほー。見た目だけじゃなく、中も和風だなあ」
木製の床。木でできた、ギシギシなる階段。白い石の壁に、松明がくっついている。
──いやいやまてまて、階段を登ってないのになんでギシギシ鳴る、と分かったんだ?
答えは単純。誰かが降りてきたからだ。敵としか考えようがない。
「喰らえ」
雷槍を投げ、予想通りにイミテーションの頭を貫いた。敵はガンガンと階段を転げ落ち、終いには粉々に砕けた。
「さっさと行くぞ」
一段飛ばしで階段を駆け登る。
二階に着くと、俺は自分の目を疑う光景を見た。この部屋は一階よりも広いのだ。
「うわ……。ここの部屋の空間が捩曲がってるよ」
エルが身震いして言った。
「流石、というべきかな?」
「誰だ!」
ばっ、と振り返ると黒マントに白仮面。拍手しながらサタンが立っていた。
「何でお前が!」
「まあ、星の国に調査しに来たら、ここに飛ばされたわけ」
どうやらあいつも俺達と同じような状況らしい。
「まさか、こんなに早く覚醒が始まるとはね……」
「覚醒?」
「君達にもいずれ分かるさ。特にアブソル、君だ」
ビシッ、とアブソルを指差す。その僅かな動作で、風が巻き起こった。
「さて、ここからは一緒に行動しようぜ」
「な、何でお前なんかと」
エルがおどおどしながら言い返した。
「城の最上階に、俺達をこの世界に閉じ込めた奴がいる。倒せば元に戻るはずだ」
「何か信用ならない……」
エーフィ姉ちゃんの呟きに頷く俺ら。
「おいおい、そんな警戒すんなよ。敵の敵は味方、ってよく言うだろ」
「……分かった。信じてやる。但し、裏切るような事があれば倒すからな」
「できれば、の話だもんね。はっきり言うと俺の方が強い」
「何い!」
がっ、と胸ぐらを掴む。するとマントが外れ、仮面が落ちた。
「お、お前……」
サタンはしまった、という顔をする。俺らは一歩も動くことができなかった。呼吸することすら忘れてしまったようだ。
あまりにもあり得なすぎたからなのかもしれない。
「お前は……俺?」
「正解、でもあるし不正解でもある」
「?」
「俺は未来から来たお前。簡単に言えばミライーブイってとこだな」
「何しに来たんだよ」
「だから言ったろ。調べものだって」
質問を重ねるのにも関わらず、サタンもとい未来の俺は焦らず冷静に返答してくる。
「み、未来の僕ってどうなってるの?」
エルが興味津々そうに訊いた。
「秘密。自分で確かめなさい」
「エルは時空警察なんだから自分の未来ぐらい見れるでしょ?」
俺が尋ねるとエルは首を横に振った。
「それがねぇ……。自分の未来は知っちゃいけないんだ。見て運命を変えようとしてもっと酷い方向にいくからなんだ」
「え!? エルって働いてたの!?」
アブソルとエーフィ姉ちゃんが驚いたように言った。
まあ、驚くのも無理はないだろう。エルが働いてるのを知っているのは俺だけなのだから。
「うん、まあ。今の職業は探検家だから」
「これで家は安定ね」
アブソルが下素顔をする。
「いーや、残念だけども、家の現状、エルの給料足しても赤字」
「ま、そのうち何とかなるから今のままで大丈夫だ」
サタンが財布を見せてきた。中には万札ばっかり。少なくとも五十万はあるだろう。
「これ、小遣いのほんの一部」
「五十万が、一部!?」
「うむ。貯金は三十億越えてる」
三十億……。いつかこんなに貯まるのか。今のままで頑張ろう。
そう心に誓う俺だった。
「ね、サタンは何で過去に何を調べに来たの? それに何で変なマントと仮面にサタンって偽名使ってるの?」
すっかり忘れていた事をアブソルが再び訊いた──そのついでに色々な質問を浴びせる。
「さあ、何となく、かな。で、このマントと仮面は俺を知ってる奴に俺だとバレないようにするため」
「そうか、仮に僕らがばったり出会っ……」
途中でエルが言葉を切った。
「待って、これすっごくマズイことなんじゃない!?」
「安心しろ。俺達はいずれ会うことになってる。それが遅いか早いかの違いだ」
何となく、話についていける俺だが、姉ちゃんとアブソルはちんぷんかんぷん、って様子だ。
「えっと、タイムパラドックスって知ってるよね。で、もし仮にサタンが未来を変えようとして誰かを殺したらその人は未来に存在しなくなる。でも、それは僕らの未来であってサタンの未来じゃない。つまり、ここで僕らの世界は二つに別れるんだ。殺された奴がいる未来といない未来に。簡単に言えば平行世界を造り出すことになるんだ。でも、いつかは会うみたいだからほんの少し、変わるぐらいだと思う」
彼女達は顔を見合わせて「分かった?」等訊きあっている。いまいちわかってないのだろう。
取り敢えず大丈夫、と言うことだけ認識したようでほっ、と溜息をついた。
「さあ、行くぞ。休んでる暇は無いんだからな」
俺らはサタンについていき、次の階に進んだ。