37話 お泊まり
「どうやって降りたら良いんだ?」
城へ戻るべく、来た道を反対に進んでいくといきなり大きな壁にぶつかった。
「崖があったんだ……」
「なら俺に任せろ」
ソルガレオが背中に乗れとでも言わんばかりに体勢を低くしている。
「おお! 頼もしいな! よし、皆乗れ!」
彼の背中にどかどか乗り込む。
「ぐ、流石にこの人数はキツいな……」
「じゃあ何匹か降ろす?」
ちらりと後ろにいる奴らを見る。
「お前が降りろ」
サンダース兄ちゃんに蹴落とされ、地面に落ちる。背中を見上げるとエルが大爆笑していた。
「てめえも道連れだ!」
エルの足を引っ張り、俺同様に落とす。
「お、丁度いい感じだ。いくぜ!」
完全に忘れ去られた俺とエルは徒歩しかないと途方に暮れていたが──いや待てよ。
「なんだ、ソルガレオに頼まなくても普通に帰れたわ。何で思い付かなかったんだろ」
「どういうこと?」
「簡単さ。エル、《空間回廊》だ」
「あ、その手があったか」
エルが手を縦に降り下ろすと丸い穴が開き、レベナ城に続いていた。
「ただいまー」
回廊を抜け、城のカーペットに足をつける。
「!?」
ゲンガー王は飲んでいたコーヒーを吹き出した。
「な、何でいきなり出てきたんじゃ!?」
口元のコーヒーを拭いながら尋ねる。
「こいつの技です」
王にエルを見せる。
「僕は空間を操ることができるんだ。でも、まだ未熟だから上手くは扱えないんだけどね」
エルは簡潔かつ、分かりやすく説明した。すると、王は分かったような顔をした。が、直にまた首を傾げた。
「儂にはさっぱり分からん。まあ、凄いことなんだろうな」
取り敢えず、凄い、ということは認識したようだ。
「あの、ルーファとシルクっていう二匹組のポケモン知りませか?」
親のことを思いだし、問う。
「ルーファと、シルク……。……ああ! あの子達か」
「何か知ってるんですか?」
「あの子達も神器を集めておったな。何か、『元凶を潰さないと』とか言ってな」
元凶? 一体何の事だか見当もつかない。
「今頃あいつら泣きながら崖降りてるだろうな!」
ブースター兄ちゃんの笑い声が耳に入った。近くにいるようだ。
俺らがここに居るのを見たら、どんな顔をするのだろうか?
王の間の扉を開け、皆が帰還した。
「ただいま戻りまし……」
ブースター兄ちゃんが言葉を切った。そして俺とエルを口をあんぐり開けて見つめる。
「な、何で私達より早いの!?」
皆の気持ちを代弁してロコンが言った。
「エルの空間回廊で帰ってきた」
「え?」
理解できないとでも言いたげにミミロップが訊き返してきた。
「エルの空間回廊で帰ってきたの。だから、ソルガレオに乗らなくても直に着いたのだよ」
「何で先に言わなかったのよ」
前列居た師匠に胸ぐらを掴まれガクガク揺らされる。
「俺を落としたのが悪い」
パチンと指を鳴らしてグレイシア姉ちゃんと《シフトチェンジ》する。
「ふぁああああ…………」
空気を読まない大欠伸。その発信源はリーフィアだった。
現在時刻は三時。普段なら彼女は──いや、俺とブースター兄ちゃんを除く全員は眠りについている時間だ。
「ふむ、幼子にとってこの時間まで起きているのはキツいだろう。君達が使っていたベッドはそのままだから今日は泊まっていきなさい」
「どうも、それじゃお言葉に甘えて……」
皆、我慢していたのだろうか。重い足取りで客間まで行くと、近くにあるベッドに適当に潜り込んで寝始めた。最早、カップル云々関係無く。
〜☆★☆★〜
翌日、俺が起きたのは午後七時過ぎだった。この国からしてみれば『おはよう』の時刻なのだが。
「んー……」
目を擦って周りを見る。なんと、俺が一番に起きていた。隣で寝ている師匠は涎を垂らしている。
「意外な一面」
鞄からスマホを取り出して、パシャッと一枚写真に納める。
「いたっ!」
背後からゴッ、という誰かが何かにぶつかったような音がした。
振り返るとゾロアークが頭から床に落っこちている。
「皆が起きるのは一体何時になるやら……」
溜息をつき、スマホでネットサーフィンを開始する。