35話 指輪を巡る攻防
「はあ、はあ……。つ、着いたぁ!」
頂上まで登り詰め、その場に倒れ込む。そして、拳を満点の星空へ突き出した。
まさか……、階段以外のものがあるなんて……。来た道をちらりと見る。続々と皆が登ってくる。
「……ッだあああ!」
叫び声と共にブースター兄ちゃんが登ってきた。
「ち、ちっくしょー。何で……崖なんかがあるんだよ! それも、垂直の壁が!」
兄ちゃんは一匹でぶつぶつ文句を言っている。そう、遡ること十五分前。
〜☆★☆★〜
「え、え〜……。これ登るの?」
目の前に聳え立つ、垂直の壁を見上げる。高さは約百m程度あるだろう。幸い、凹凸が激しいので登るのに然程苦労しないはずだ。
いや、間違っていた。三十m付近に来たとき、風が吹いた。今まではそよ風程度だったのに、ここに来ていきなり突風級に変化した。
「うおおおお!」
ゾロアークを背負ったルカリオが猛スピードで走り去っていった。
いやいや、走り去るってなんだよ! 後でルカリオを問い詰めてやる、と心に誓い、一生懸命になって登る。
十五分という時間をかけて登った。当然、ルカリオとゾロアークが一着。
そして、話は最初に戻る。
「あの……」
息を整える俺に、誰かが話しかけてきた。俺の知ってる声ではない。
「あの、皆さん自力で登ってきたんですか?」
「ええ、はい、まあ……」
くるりと振り返って、顔を確認する。
どこかで見たことある顔だ。だが、思い出せない。
「どうかしました?」
「い、いや。特に何も」
「見た感じ皆さん自力で登ってきたようですが、崖の近くに呼び出し鈴がありましたよ?」
「はい?」
「ですから、呼び出し鈴がありまして……。それを鳴らせば私が迎えに行きましたのに。あ、申し遅れました。私はルナアーラです」
「思い出した! あんた、空の架け橋の石像だったぞ!」
唐突に叫ぶ俺。皆驚いて固まった。特にルナアーラが。
「皆さんは下界の民だったんですね。このような場所にようこそいらっしゃいました。……おや、貴女、太陽のペンダントを身に付けてらっしゃるんですね」
「それが、何か?」
エーフィ姉ちゃんはペンダントを手で覆い隠しながら言った。
「いえ、ソルガレオに勝つとは流石だな、と思いまして」
「ソルガレオ?」
「え? ご存知ないんですか? ならばなぜ、ペンダントを持っているのですか!」
急に怒鳴りだすルナアーラ。その気迫に俺らは気圧された。
「まさか、盗んだのですか!?」
「ち、違うわ! これはレースの賞品で──きゃあ!?」
突如始まる、シャドーボールの嵐。疲れた体に鞭を入れて躱す。
「あぶねえじゃねえか!」
サンダース兄ちゃんが叫ぶ。が、ルナアーラは軽蔑した目で俺らを見下ろしている。
「ああ、もうこりゃ駄目なやつだ。ポケダン名物、理不尽なボス戦!!」
ブースター兄ちゃんが飛んでくる攻撃を避けながら言う。空を見上げた時には月をバックにルナアーラがホバリングしている。
「くっ! これじゃ攻撃が届かない!」
ジャノビーが《草双剣》を構えながら言った。
「なら、引き摺り落とせばいい」
そう答えたのはルカリオだった。しかし彼にはロングレンジ系統の技をあまり覚えていない。
何をするのかと見守っていると、《波動棍》を二本だし、それぞれを地面に突き立てた。次にシャワーズ姉ちゃんを呼び、《水弓》の弦だけを二本だしてもらった。最後にブースターを兄ちゃんの《火爪》を受け取り、レザーバックに代用した。
「イーブイ、君が仕上げだ」
「何すんだよ」
ルカリオの側に寄ると、抱き上げられた。そしてそのまま先程の装置に取り付けられた。
「準備完了! 皆! 思いっきり引っ張って!」
全員で力の限り引き絞る。ギリギリという音が耳元で訊こえる。
ルナアーラも俺らが何をするのか気になって攻撃してこない。
「《ツヨイネ協力パチンコ》! 略して、TKP! 発射!」
ルカリオの合図と共に放たれた俺は、物凄い速度でルナアーラに突っ込んでいく。
途中、ルナアーラは俺を落下させるためにシャドーボールを集中砲火してきた。が、《氷雪剣》を創り、全て切り裂く。
「うおおおおおおおお!!!」
──ルナアーラまであと、三m。