33話 本の著者
「いやいや! 自分だけ納得しないでよ!」
全員で詰め寄る。
「えーっと、この本を書いたのはルカリオのご先祖様一同です」
「…………!?」
一同、絶句した後、ルカリオの顔をまじまじと見つめる。
「あの、僕は何にもしてないんだけど……」
ルカリオは照れながら呟く。
「これを書き始めたのが、ルカリオのひいひいひいひいひいひいひいお祖父さんからで、書き上げたのが、ウォッカさんなのよ」
へえ〜、と話を真剣に訊く俺達。
「この本にはスカイランドの全てが載ってるわ。まさか、母さんが家宝を他人に渡すとは思いもしなかったわ。はい、ありがと」
ルミナは本を俺に手渡した。
「いらないのか?」
「別に。私は家宝とかに興味ないから。っていうか私、長い本読まないんだよね。大体は漫画だし」
下らない雑談をしていると、ゲンガー王に話し掛けられた。
「のう、お主ら。戦の後は腹が減るじゃろ。朝食でも食べていきなさい」
ゲンガー王がにっこり笑うと多少ホラーな感じがする。
「ありがたくいただきます」
「それは良かった。見たところ、お主らは空の四神器を集めているようじゃな」
「空の四神器?」
敬語も無しにルカリオが訊き返した。
「お前もう忘れたのかよ。ウォッカが教えてくれたろ」
目を丸くして黙り込むルカリオ。三秒後、はっ、と顔を上げた。
「ああ! この流星グローブのことか!」
「左様。それと、その少女の身に付けている太陽のペンダントもな」
「何気に二つも神器持ってんだな、俺達」
感心したような吐息を漏らすサンダース兄ちゃん。
「王様、食事の準備ができました」
召し使いのような者が食堂らしき部屋のドアを開け放って言った。
「こちらへ」
召し使いさんに連れられ、俺らは食堂に入った。
うん、広い。流石はお城だ。だけど、だけど! 残念すぎるよ王様ぁ!
内装は入口とほぼ同じ。蝋燭がゆらゆら不気味に揺らめいている。
俺は改めてこの国が昼夜逆転だと認識した。
食事のメニューは食パン一枚に牛乳、それから目玉焼き。
あれ? そういや、この卵ってどこから来たのかなぁ……?
パンを齧りながら、たった今生まれたどうでもいい疑問に没頭する。
「ねえ、ねえちょっと! 大丈夫?」
隣に座ったロコンに脇腹を小突かれた。
「え? あ、そうだロコン。卵ってどこから来るんだっけ?」
「はあ? そんなことも忘れちゃったの? 卵は雄と雌が交わって雌の体内でできるものよ。分かった?」
「じゃなくて、今食べてるこの卵のこと。昔、訊いたんだけど忘れちゃってさ」
「ああ、その卵は雌の死刑囚に無理矢理孕ませてスーパーに輸送してるんだよよ」
「あ! そうだそうだ。思い出した。サンキューロコン」
謎が解け、スッキリした俺は目玉焼きにがっついた。
「ふぅー。ごちそうさま!」
全て、食べ終わり、手の甲で口を拭った。
「ところで、お主は月の祭壇って知ってるかの?」
上品にナプキンで口元を拭ったゲンガー王はちらりと俺を見た。
「いや、何ですか? それ」
「月の祭壇はこの城の奥にある場所で、四神器のうちの一つ、月の指輪がある。ただし! 一つ注意じゃ。神器の番人、ルナアーラがいる」
「ルナアーラ……?」
「神器の番人であり、守り神の一角でもある。恐ろしい奴じゃ。が、英雄の島にいるレシラムの方が強いんじゃがな」
「でも、来たときには山なんかありませんでしたよ」
「祭壇は昼頃にならないと──いや、主らからすれば夜中か──出てこないのじゃ」
「ほうほう。で、大体何時頃なんですか?」
「二時頃かの……」
現在時刻は八時。つまりあと六時間空きがあるということだ。
「まあ、その時間になったら起こしてやるから。寝てなさい。部屋もさせよう」
王が手をパンパンと叩くと召し使いさんが登場した。召し使いはゲンガー王の話を訊くと、俺達に「部屋の準備をしておくので少々お待ちください」と告げ、速足で去っていった。
それから二十分後、小走りで戻ってきた召し使いさんの後に続いて客人用の寝室へついた。
「ごゆっくりどうぞ」
にこりと笑うと忙しそうにどこかへ駆けていった。
「さて、寝るか」
まず最初にブースター兄ちゃんがベッドに飛び込んだ。兄ちゃんと同じベッドにリーフィアが潜り込んだ。
カップル共はそれを真似したため、ベッドは随分と空いている。
「ま、広々使えるしいっか」
ベッドを二つ繋げてそこに寝転ぶ。ふっかふかのベッドに身を委ね、目を瞑る。
ルナアーラ……。レシラムよりは強くないらしいが油断はできないぜ。