32話 本当のキモチ
「うおおおッ!!」
剣を左から切り上げ、その力を利用して飛び上がる。次いで、そのまま落下し、二撃目の攻撃を与える。
「怒りだけでは勝てんぞ!」
「どこぞのRPGのボスか!!」
ジュナイパーのシャドークローを右手の剣で受け止め、左手の剣は奴の足を狙っている。
「見えているわ!」
爪で剣を弾き返し、ジャンプして、足を切り払おうとするもう一方の剣を踏みつけた。
体勢を崩し、前のめりになったジャノビーの顎に、サマーソルトキックがはいった。
「ぐあッ!!」
背中から地面に倒れたジャノビーに更なる追撃が襲いかかる。
「ほらほら! 口ほどにもないなあ!」
ジュナイパーはマウントポジションからジャノビーを殴り付ける。
「リーフストーム!!」
ジャノビーの二刀から草の渦が発生した。
「むお!?」
吃驚したジュナイパーは押し返され、派手な尻餅を着く。
「覚悟はできてるんだろうな……」
ジャノビーの目がきらりと妖しく光った。その姿はまるで鬼神。何人たりとも寄せ付けぬ鬼神のようだった。
このままでは冗談抜きにジュナイパーは殺されるだろう。
「おーい、それぐらいにしとけ」
ジャノビーの手を掴み、後ろに引っ張る。
「……やめろ。俺はこいつを殺しきるんだ」
「お前が怒ってる理由って袋の中身がルミナかもしれないからだろ? 中身がルミナって保証はないんだぞ?」
「はははは! その通り!」
「どっちの味方だよ!」
「そんな言うなら開けてみなよ」
舌打ちをして、袋を開ける。が、中に入っていたのは別の女の子だった。
「な!?」
「ジャノビー。それ、偽の袋だよ。本物はこっち」
ゾロアークが『本物』の袋を引き裂くと、中からしかめっ面のルミナが出てきた。
「ふざけんなッ!!」
ルミナはジュナイパーに向かって吠えた。そして、強力なビンタを一撃。完全なる不意討ち。
「あんた、私を誘拐しといて何が『俺の婚約者』だ! 夢見んのも大概にしろよな!」
本当に姫かと疑うほどの激しい罵倒。その勢いに気圧されたジュナイパーは──いや、俺達は動くことができなかった。
「私は! 一方的な愛なんか欲しくない! お互いが好きだってなら何でも良いんだ!」
「じゃ、じゃあ俺は──」
「大を通り越えて超嫌い」
パタンとその場に仰向けに寝転ぶジュナイパー。その目から涙が流れている。
「何泣いてんだか……。自業自得のくせに」
「る、ルミナ……」
ジャノビーが話し掛ける。すると、くるりと振り返った。二発目のビンタか? と思ったがにっこり笑っていた。
「私はあいつよりも、ジャノビーの方が好きだ。私のために怒ってくれた時、凄く嬉しかった。あれ、私のためでしょ?」
放心状態のジャノビー。唐突な『好き』という一言にノックアウトされたようだ。
「息子よ、叶わぬ恋というのは沢山あるんだ。だから、気を落とすでないぞ」
「親父は解ってないよ。お袋とはどうせ王家の、なんちゃらかんちゃらってやつで結婚したんだろ?」
「残念だったな。ムウマージは平民出身じゃ。儂が町を散歩しておった時に見かけ、一目惚れしたんじゃ。それからというもの毎日毎日口説きに行って、今に至る訳じゃ」
「……うん、解ったよ。俺はめげない。絶対に良い相手を見つけるよ」
「その意気じゃ!」
ガハハハハ! と笑いあう親子は放っておいて放心から立ち直ったジャノビーを見る。
「あ、えと、わ、わた、私も好きでございます」
急な敬語。しかも、超咬んでる。
「良かった。ただ、仲間だからだ、ってだけだったらどうしようかと思ったよ。じゃあ、式はどこであげる?」
「式?」
ジャノビーはきょとんとしている。
「結婚式だよ、結婚式」
「は────!? お、俺まだ十四歳だぜ!? 無理無理、もっと大人になってから、せめて二十歳になったら!」
「あと六年ね……何か印のような物があればいいんだけど……」
「そーだ。この本に何か書いてないかな……」
貰った時から肌身離さず持っている分厚い本を開く。
「……うん。一個あったよ。星の国って所で仮結婚できるみたい。これは、最低限のキスまでが必要だね」
書いてあることを要約して読み上げる。
「え? イーブイ! その本ちょっと見せて!」
「? おわっ!」
ルミナに本を引ったくれ、吃驚する。
「この筆跡、やっぱり! どこで貰ったの!」
「アシレーヌ王妃にこっそり貰ったんだけど……」