31話 レベナ城にて
ロコンが治ってから、五時間。現在時刻は午後一時。
ロコンはずーっとアブソル達と喋っている。
「……そろそろ次の目的地決めなくちゃな」
船内を歩き回ってルミナを捜す。
「おーい、ルミナー」
呼んでみるが返事はない。首を捻って考えてみたが答えは出ない。
「あ、ジャノビーの部屋かも」
ふと、ジャノビーの部屋ってどこだっけ? と考え込んだ。が、そんな必要はなかった。
目の前をルミナが通りすぎたのだ。
「ねえルミナ!」
「何?」
「この場所から一番近い島ない?」
「一番近い島ねぇ……。あー、月の国かなぁ? ここから南西にずーっと進んでれば夜ぐらいには着くはずよ」
「ありがと」
お礼を言い、ミミロップの所に行く。
「ミミロップ。次の目的地は月の国だ。行き方は南西にずーっと進んでればいいって」
「ん、解ったわ」
〜☆★☆★〜
―月の国―
「おー、着いた着いた」
時刻は七時。全員船から降り、城下町を見回す。
「私、ここで待ってる」
ルミナが船の柵から顔だけ出して言った。
「わかった」
「あ、見てよ。夜なのに新聞配ってる」
リーフィアが指差す方向には家のポストに新聞を詰め込むポケモンが見える。
「夕刊だろ」
サンダース兄ちゃんがどうでもいい、と返した。
「あ、牛乳配達もしてる」
「はあ? 何この国。昼夜逆転してんのか?」
「そうだよー」
俺のぼやきに船からルミナが答えた。
「お城にでも行ってみようか」
俺が先陣をきって歩き出す。太陽の国と同様にプレートの吊るされた門を潜り抜ける。
「へぇ……この国は《レベナ》って言うのね」
看板を見上げた師匠が呟く。
「……ねえ、見てよ。夜だってのに今起きた奴がいる」
ルカリオが指し示す方向には欠伸をしてベッドから降りるポケモンが窓から見えた。
「うわぁ……ほんとに昼夜逆転してる町ね。感覚が狂わないうちに早く行きましょう」
エーフィ姉ちゃんが頭をぷるぷる振って、言った。
―レベナ城―
「待たれよ」
鉄製の槍を所持したサンドパンに止められた。
「用件を述べよ」
「あー、王様に会いに来ました」
「何故?」
「下界から来たら会いに行かなきゃならないんだろ?」
「そういうことならば。どうぞお通り下さい」
「どうも」
俺らは門番に礼を告げ、城の中に入っていく。
内装は最悪。だが口には出せない。壁の色は濃い紫。その壁には不気味に煌めく蝋燭。
「うへぇ……。悪趣味ねぇ……」
皆の気持ちを代弁してアブソルが呟いた。それに続いて誰も何も答えなかったが、ウンウンと頷いた。
「誰かに訊かれる前にさっさと会おうぜ」
ブースター兄ちゃんが王の間に続く扉を開ける。
「……誰じゃ」
王座から威厳ある声が響く。
「えと、下界から来た探検隊です」
「そうかそうか。儂はゲンガー。見ての通りこの国の王じゃ」
「私はムウマージ。この国の王妃です。で、こっちが息子の──あら? また逃げたのね」
ムウマージ王妃はやれやれと首を振った。すると王座の後ろにあるステンドグラスの一ヶ所が開き、そこから何かを持った誰かが、入場した。
「あら、漸く帰ってきたのね」
「お、お前は! ジュナイパー!!」
一同驚愕の声を上げる。
「ただいま。で、こいつらは──ああ、またお前らか。一体何しに来たんだ?」
「こらジュナイパー。やめんか客人の前で」
「あのー、一つ質問なんですが……ジュナイパーと王と王妃の卵グループが一致しないんですが……」
急に真面目な話をぶちこんでくるニンフィア。
「ああ、儂らには子宝を授けて貰えなくての……。だから養子、という訳じゃ」
だから、そんなひねくれた性格なんですね、とは口に出さなかった。
「ん、ジュナイパーよ、その袋の中身はなんじゃ?」
ジュナイパーの肩に担がれた袋は中で何かが暴れている。
「ああ、これは俺の婚約者だ」
俺の横を駆け抜けた緑色の閃光。その正体はジャノビーだった。
「てめえッ! よくもルミナを拐ったな!」
ジャノビーの手に握られた《草双剣》が震えている。
「ふん、貴様ごときに負ける俺ではないわ!」
翼を大きく広げ、ジャノビーを押し返す。
「もう一回、足をへし折ってやるぜ」
ジャノビーの目は、怒りに燃えていた。