バレンタイン
今日は二月十四日。つまり、バレンタインデー。今回のお話はバトル無し。
主人公はイーブイではなく、大好きな男の子達に美味しいチョコレートをあげようと奮闘する、十一匹の女の子達の物語。
「ふふふ。今日は私が活躍する日!」
アブソルが材料のチョコを溶かしながら得意気に言った。
「イーブイは私のチョコに夢中になるはずよ」
負けじとロコンが言い返す。
「残念だけど、イーブイを貰うのは私達」
「ミミロップ、サーナイト……。どういう意味よ!」
「アブソル、私を睨まないでちょーだい」
「理由としては私とサーナイトが共同開発した惚れ薬があるから!」
「それはズルい!」
薬を奪おうと飛び掛かるロコンだったが、念力で止められてしまった。
「ねー、サーナイト〜。このチョコ混ぜてくれない?」
「お安いご用」
念力でぐるぐる掻き回し、サービスとして箱に積めてあげる。
「おお。ありがと! 兄さんに渡してくる!」
「兄さん、バレンタインのチョコあげる」
「お、サンキュー。って、こんなに食えねえよ」
「いいのいいの。私も食べるんだから。これ、ロシアンルーレットだから」
にっこりと微笑むシャワーズ。対してサンダースはひきつった笑いを浮かべている。
「じゃ、じゃあ頂きます」
恐る恐る手に取り、口に放り込む。
「!? おええええ!」
「お、いきなり当たったね」
「何でカレー粉なんか入ってんだよ!」
「言ったじゃない。ロシアンルーレットだって。私はセーフ」
「むう……運が試されるのか。……南無三!」
勇気を振り絞って食べる。
「あ、か、こ、これ、かれえええ!!」
「ビンゴ! マトマの実味をとったね!」
きゃっきゃっ、とシャワーズは子供のように笑っている。
所変わって、ブースターの部屋。
「オラッ!」
「あ、くそ! やったな!」
ブースターはブラッキーとゲームをしている最中だった。
「お兄ちゃ〜ん」
「兄さん」
そこへリーフィアとニンフィアが来た。もちろん彼女達がここに来た理由はチョコを渡すためである。
「おう。何か用か?」
「チョコあげる!」
リーフィアが手渡したチョコはハート型の箱に入れられ、可愛らしい装飾が施されていた。
「おー、毎年サンキュー」
「隙ありッ!」
ブースターが余所見した刹那、ブラッキーが操作するキャラクターの必殺技が直撃し、ブースターのキャラクターは呆気なくHPバーを消し飛ばした。
「あ! ずりいぞ!」
バーチャルで負けたのなら今度はリアルでだ! とでも言うかのようにブラッキーに飛びかかった。
「兄さん」
「お兄ちゃん」
彼らには妹達の声が届いていない。
「お兄ちゃんのバカー!!」
無視され続けたせいか、リーフィアはチョコの箱をブースターの後頭部に投げ捨て、部屋から飛び出した。
「リーフィア!」
ニンフィアも一度軽蔑の眼差しをブースター達に向けて部屋から出ていった。
「悪かったよ! 僕が悪かったから許してくれ!」
ブラッキーはその後を追って部屋を出た。
「ルカリオ、チョコ欲しい?」
「うん、欲しい」
「ならば、姫抱っこしなさい」
「いいよ」
ルカリオは軽々とゾロアークを持ち上げた。
直後、ゾロアークは急にキスした。ルカリオは吃驚して落としそうになるが、ギリギリ踏みとどまった。
「私達もする?」
その光景を遠目から見ていたエーフィがエルに訊いた。
「別にエーフィの体重について言う訳じゃないけどさ、僕ら体格差があるでしょ? だから、これぐらいかな」
エルに顎をクイッとされ、体を硬直させるエーフィ。
「何てね。僕はキスしたいわけじゃないのさ」
「そこまでして、やらないのは後味がわるいわ!」
今度は逆にやられ、びくっと固まるエル。そして、熱いキスを交わし、チョコを受け取った。
「はい」
「あ、ありがと」
頬を赤らめてルミナはジャノビーにチョコを渡す。
「味気ないわね……。私達もキス?」
「いや、付き合いだしてからの日が浅いし、ハグくらいじゃね」
そんなこんなで、ぎゅっと抱き合う彼ら。
そして、最後は我らが主人公イーブイだ。
「おーい! こ、これ!」
アブソルはロコンを押し退けてチョコを投げ渡した。
「お、おう」
「こっちも!」
ロコンはアブソルの脇の下から滑らせ、イーブイの足元に転がした。
「二匹ともありがとう」
「私達からも!」
アブソルの頭上を小さな箱が、弧を描いてイーブイに渡った。
「師匠にミミロップもサンキュー」
イーブイは満足そうにチョコを見つめると、机の上に置いた。
「今食べないの?」
「デザートだデザート。もう夕飯だからな。行こうぜ」
イーブイは全員を引き連れて階下に降りていった。
果たして、ロコンとアブソルの思いはイーブイに通じるのか……?