あけおめッ!
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。……とか堅苦しいのは無しではっちゃけようぜええ!!」
「ひゅーひゅー!!」
俺が新年の御丁寧な挨拶と見せかけて叫ぶ。それに乗ったのは、エル、ルカリオ、グレイシア姉ちゃん、ブースター兄ちゃん、リーフィアだけだった。
残りの者はお節に夢中か、テレビで特番見てるか、はたまた、新年そうそういちゃついてるかのどれかだった。
「この蟹美味しい〜」
この蟹も本編で解説した通り、死刑囚である。そして、この死刑囚を頬張っているのが我が師匠こと、サーナイトだ。
「……さて諸君。正月、といったら?」
「お年玉!!」
声を揃えて叫ぶ彼らを見て俺は頷く。
「じゃあこれからやることは?」
「知り合い全員の家に行ってお年玉を巻き上げる!」
「行くぜ!!」
ドアを壊さんばかりの勢いで開け、外に飛び出す。
「先ずは誰の家に行く?」
俺は走りながら尋ねた。
「……ちょっと遠いけどジャローダの家にしよう!」
ブースター兄ちゃんの案に決定した。ジャローダの家までの所要時間、7分。本気で走ったため、皆息切れしている。勿論俺も。
インターホンを鳴らし、誰かが出てくるのを待つ。
「はいはーい」
ドアを開けて出てきたのはチラチーノだった。正月、だからなのか可愛らしい髪飾りをつけている。
「おお、イーブイやないか。元気しとったか?」
「ああ、まあね」
「で? 正月に何しに来た──! ま、まさかあんたら……」
「そう、そのまさかだ」
チラチーノの顔がみるみる赤く染まっていく。いや、何で赤くなるんだよ。
「うちの可愛い顔を見に来たんか!?」
「違う」
「何や……。まあ、中に入りな。うち寒いの苦手やねん」
というわけで、俺達はジャローダの家に入った。
「おー、あけおめー」
リビングに入ったら、ツタージャとクチートがソファに寝転んでいた。
「あけおめ」
「あらイーブイ。何か用?」
俺らに気づいたようでキッチンからジャローダが這ってきた。
「わかるでしょ?」
俺達全員で両手を差し出した。
「はあ……お年玉ね」
ジャローダが財布を開き、千ポケ札を6枚取り出した。
「ありがとー!」
「図々しいガキ供ね」
ジャローダが溜息混じりに呟いた。
「次は……神々の山いくぞ」
「ええ? 伝説のポケモン達からも貰うの? ちょっと度が過ぎてるよ」
リーフィアが嫌そうな顔して反論する。それに賛成するかのように皆頷き始めた。
「ふむ……じゃあ俺だけで行くか」
「行ってらっしゃい」
その場にいた全員が俺に手を振って別れを告げた。
「ま、伝説のポケモン達がいるんなら庶民よりも高級な物食ってんだろうな」
最後に一言付け加えて、走り出す。ルカリオや、エルが追いかけてくる音が訊こえる。《クイック》を発動し、追手を引き離す。
「あ! ずりい!」
「へへーんだ!」
呪文を唱える場所までついた。一度振り返り、誰も来てないことを確認する。そして、大声で呪文を叫んだ。
「よし、開いた!」
現れた地下への階段を駆け降り、レジ系3体をぶっ倒し──。
「あれ? あいつらが動いてない?」
どれだけ近づこうが奴等は微動だにしない。
「ん? 何だこれ?」
レジロックの額に張られているメモ用紙を取る。
「正月休みのため、俺達はそれぞれの好きな場所に行ってるのでお年玉はないぞ! わははははは!! だからって腹いせに中の物壊してくなよ! 特に『イーブイ』! 分かったら帰れ! よいお年を! わはははは! byアルセウス。何で俺をピンポイントで書くんだよ!」
「はあ……はあ……漸く着いた。あれ? イーブイ。何でいるの?」
エルが息を調えながら尋ねてきた。
「あいつらは今世界のどっかにいる」
「じゃ、じゃあ……お節もお年玉も無し?」
「ここまで来た意味は何だったのよ」
双子で文句を言うブースター兄ちゃんとグレイシア姉ちゃん。それに便乗して騒ぎだす残り。
「帰ってきたら神々の山の奴等もう一回ぶっ倒してやる!」
そう叫び、腹いせにレジロック、レジアイス、レジスチルをアルセウスがいる頂上に埋めてきた。
頭だけをだして。
「結局貰ったのは千ポケだけか……」
ブースター兄ちゃんが溜息をつく。
「貰えないよりはましよ」
「リーフィアみたいなガキだったらこれで満足だろうが俺みたいに大人になったら満足できなくなるのだよ」
確かになあ……。こいつらの全部金庫に入れてもまだ赤字だし。もっと欲しいわぁ……
来年こそは、と心に誓い、帰路を歩むのだった。