クリスマス
「メリークリスマース!」
ぱぁん! ぱぁん! とクラッカーの炸裂する音がリビング中に響いた。
そう、今日はクリスマスだ。
「今日は依頼なんかやんないしメタ発言ありの無礼講でいこうぜええ!!」
俺が拳を振り上げて叫ぶと、それに呼応してメンバー全員が騒ぎだす。
「ケーキは?」
ニンフィアがきょろきょろと辺りを見回す。
「ここにあるわよ!」
シャワーズ姉ちゃんとゾロアークが冷蔵庫をぽんと叩いた。
「今年ケーキを買いに行った奴手ぇ上げろ」
楽し気な雰囲気から一変し場には冷たい空気が流れ始めた。すると、アブソルとロコンがおずおずと手を上げた。
「去年の大失敗を忘れた訳じゃないよなあ? ちゃんと買ってきたよなあ?」
俺が問い詰めると彼女らはこくこくと頷いた。
「読者さん達は知らないみたいだしお話ししますか」
──去年のクリスマスケーキはグレイシア姉ちゃんとエーフィ姉ちゃん、それからシャワーズ姉ちゃんが買ってきた。
そのケーキのサイズは何と、目測、5m。代金は特注品のため50万ポケもした。
勿論、18匹で食いきれるわけもなかった。困り果て、挙げ句の果てにはジャローダ達を呼んだり、ミュウやジラーチ、ビクティニを招いて漸く、食いきれたのだ。それから1週間は大赤字だった。
「大丈夫! 今年は丁度いいサイズを買ってきたから!」
冷蔵庫からケーキを取りだし、テーブルの上に乗せる。
「75cmのショートケーキです!」
アブソルがレシートを掲げて言う。
「切るわよー」
グレイシア姉ちゃんは包丁を手に取り慣れた手つきでケーキを切った。流石、と言わざるをえない。日頃から、見たことはないが《氷雪剣》を使い込んでいるのだろう。
「では、食おうか!」
各々が皿に取り、フォークを突き刺す。そして、大口を開けて放り込む。
ピンポーン
「ん? 誰だろうな」
皿とフォークを置き、玄関に向かう。
「はーい」
ドアを開けるとそこにはサンタクロースのような者が立っていた。
「メリークリスマス!」
そいつはおどおどしながら決まり文句を口にした。
「め、メリークリスマス……」
「僕はサンタクロースのデリバード! ケーキの匂いに釣られてやって来たよ」
「……煙突から来いよ」
「やだ。高い所が怖いの」
「情けねえサンタだぜ」
やれやれと首を振る俺を前に高所恐怖症サンタことデリバードは赤面して頭を掻いた。
「はぁー……。まあいいや。取り敢えず入れよ、寒いし」
「お邪魔しまーす」
「で、誰だったの?」
エルが頬にクリームをつけながら訊いてきた。
──その間抜け面と言ったら……。あははは! いやー、面白いから黙っておこう。
「ああ、うん。ぷふっ、サンタだって」
「サンタぁ!?」
改めて思えば内にサンタクロースが居るというのは結構凄いことなのだろう。
だが、ダークマターやらダークルギア等と戦っていたら大抵のことには驚かなくなった。
「そういやお前、ソリはどうした? 乗ってなかったけど」
質問攻めにあっているデリバードを皆の輪から引っ張りだし、尋ねた。
「それがねえ……情けない話、墜落して壊しちゃったの」
てへへ、と笑うデリバードを俺達はただただ無言で見つめていた。
「うわぁ……ソリをぶっ壊すサンタなんて初めて訊いたわ」
アブソルが多少軽蔑が混じった声で言った。そしてそれに便乗して皆がうんうんと頷いた。
「どこにあるのよ、それは?」
いつの間にかミミロップがスパナやらドライバー等の工具を手に持ち、立っていた。
「君達の家の屋根に……」
デリバードは申し訳なさそうに答えた。すると、ミミロップは溜息をつき、屋根に登っていった。
「行っちゃった」
俺はミミロップの皿に残った手をつけていないケーキに目を光らせた。
「いただきまー──」
バリバリバリバリ!!
「うぎゃぎゃぎゃ!!」
ケーキにフォークの先がちょこっと触れた瞬間、俺の体に凄まじい電流が駆け巡った。そして、ミミロップの声がケーキの内部から聞こえた。
『こんなこともあろうかと思ったので、罠をかけさせてもらったよ! これが私からのクリスマスプレゼントってことで! 引っ掛かった誰かさん、ドンマイ!』
「こんなのクリスマスプレゼントじゃねえよおお!」
俺の叫びは雪の降る外にまで響いたそうな。
《おしまい!》
次回は大晦日の12:00に!