30話 お帰りロコン
温かい……というか暑い。
ガバッと起き上がり、原因を確認しようと思ったが、何故か体が重い。
もしや、風邪か? 両手を使い、踏ん張る。何とか体を起こせた俺は腹から爪先にかけて違和感を感じた。
両サイドを見てみると、アブソルとロコンがくっ付いていた。
どうりで暑いわけだ。二匹を引き剥がし、寝室から出る。
「お、ブースター兄ちゃんおはよ。……何やってんの?」
兄ちゃんは物陰から何かを覗いている。
「おう、イーブイ。お前もちょっと見てみろや。上に乗っかって良いからよ」
俺は兄ちゃんの背中に乗り、同じ方向を見る。その先には、仲良く喋っているルカリオとゾロアークが居た。
「見てて楽しいか? 変態」
「五月蝿い! キスのタイミングを覚えるんだ!」
「どうぞご勝手に。……付き合いきれないぜ」
やれやれと首を振ってその場を後にした。
「きゅー」
「おわっ!?」
振り返った目の前にはロコンが立っていた。
「……あ! そうだ! おい、ロコン。これ食え」
鞄から『モドリ草』を取り出して、食べさせる。
若草色の細長い形をした草をモグモグと暫く真顔で食べていたが、急に顔をしかめて吐き出してきた。
べちゃっと俺の顔にかかった。顔から落とし、まだまだ沢山あるので一枚齧ってみる。
「おえー。くっそ苦いわこれ」
ロコンが吐き出すのも無理ないと思うが、食べなければ元に戻らないのでもう一度食べさせる。
「ほれ、食え」
が、ロコンはそっぽを向いた。
「このやろー! 折角俺があの島から採ってきてやったのにー!!」
力ずくでも食わせようとロコンを捕まえる。が、彼女は体を発火させて俺の手から逃れた。
「あっつ! て、ああっ! 待てこのやろー!」
火傷した指の痛みを我慢しながらロコンを追いかける。
「ね、姉ちゃん捕まえて!」
ロコンが通過しようとする場所に丁度グレイシア姉ちゃんが通ったのだ。
「え? わ! きゃ!」
三言で終了。姉ちゃんはどしーんと床に倒され無様な姿を晒す。
「くぅ〜……覚えてなさい!」
姉ちゃんは俺を追い越さんばかりの勢いで走っていった。
「ルカリオ! ゾロアーク! 捕まえてッ!」
姉ちゃんが叫ぶ。二匹は慌てたようにロコンに飛びかかったがひょい、と避けられてしまった。
「あ、師匠。サイコキネシスで捕まえてよ」
すれ違い様に師匠の手を掴み一緒に走る。
「いいわよ。見てなさい」
師匠は立ち止まるとロコンに手を真っ直ぐ向けた。するとロコンが持ち上がり、こっちに移動してきた。
「さっすが師匠だ!」
「当たり前よ」
師匠は得意そうに笑うとロコンを解放した。その直後、奴は脱兎の如く逃げ出した。
「はあ……」
溜息をついて再び追いかける。
「《ストップ》!」
ロコンに《ストップ》をかけようとしたが、効果範囲外に逃げられ失敗に終わった。
「エルー!!」
止まって大声で呼ぶとすっ飛んできた。
「な、何?」
「《空間回廊》でロコンを俺の目の前に連れてきて」
「解った」
エルはロコンが走るコースに回廊を開き、待ち伏せる。
「来たッ!」
掛かった! と思ったのだが、見事のジャンプにより躱された。
「な……。」
絶句するエル。自分の最高の技を躱されたのだから無理はないだろう。
「待てーッ!!」
周りにいた全員がロコンを追いかけ始めた。
「きゅー♪」
ロコンはこれを遊びだと思っているようだ。そこに腹が立つ。
「うおっ!?」
「きゅっ!?」
ロコンとブースター兄ちゃんが激突した。
「ブースター! そのまま逃がさないでよ!」
「お、おう」
グレイシア姉ちゃんの指示に従い、ロコンをがっちりホールドする。
「漸く捕まえたぜ……ロコン! ちゃんと食べるんだ!」
「きゅっ!」
いやいや、と暴れだす。
「はあ……。仕方ない」
俺はロコンの腹に手を乗せ、擽る。
「今だ!」
笑い転げて開いた口にモドリ草を詰め込む。
「兄ちゃん! その口を塞いで!」
「任せろ!」
皆が何をやっているか理解したようで自信をもって頷いた。
「ぎゅぎゅぎゅ!!」
更に暴れだすロコン。全員で手足を押さえつけ、尻尾も床に固定する。
三分ほどたち、観念したようにロコンは草を飲み込んだ。
「ぎゅぅ──……。……う、ぐぅー……。うああああ!!」
ロコンは強い光を放ち、動かなくなった。頬を数回叩くと目を開けて俺達を見回した。
「あれ、皆で私の周りに集まって何やってんの?」
「ロコンが喋った!」
これで、俺の苦労は報われたのだ。
「お帰り、ロコン!」
「た、ただいま」