28話 月下雷鳴
遂に英雄の島から脱出した俺は。ミミロップの代わりに飛空艇を運転している。
「静かでいい天気だ。とか何とか言ってると急に悪くなった──はあ……これだよ」
先程までは、つまり三秒前までは文句なしの天候だった。
だが船の進む先にはポケトピアでも見たことが無いような暗雲があり、肉眼では確認できないほど遠くまで広がっていた。
「え……? 近づいて、来てる?」
見間違いなどではない。雲はかなりの速度で近づいてきている。
「あ、れ? 雲に何か混じってる……?」
その混じり物はこっちへ物凄い速度で向かってくる。
絶対に、関わっちゃいけない気がする。舵を反対に回して黒雲から遠ざかる。
「待て!」
雷が轟くような大声が俺を呼び止めた。逃げるのが遅かった──というよりか相手の方が速かった、と言った方が正しいだろう。
「誰だ!」
「俺はゼクロム。よくも俺の嫁を泣かしたな!」
「嫁……?」
「そうだ! レシラムを泣かせたな! 傷だらけにしやがって!」
ゼクロムが吠えた。すると空から稲妻が降ってきた。
「くっ!」
横に転がって回避する。俺は立ち上がってゼクロムを睨み付け、怒鳴り返す。
「おい! 船を壊す気か!」
「……そうか。ならば戦場を変えるか」
「どこいくんだよ……」
「俺の背中に乗れ。連れていく」
「……やだね。どーせ振り落とすんだろ」
「さあな。ここで戦えばお前のお仲間はお陀仏だぞ」
「ッ……。わかった」
俺は渋々ゼクロムの背中に飛び乗る。もしものことがあった時のために爪を立てて掴まる。
ゼクロムは上を向くと、ビューンと一気に飛んだ。雲を突き抜け、その上まで。
雲を通り抜ける途中、近くで何度も稲妻が迸り、その度に全身の毛が逆立った。
〜☆★☆★〜
雲から突き出た塔のような場所。俺を乗せたゼクロムはそこの最上階に降り立った。
天井は無く、頭上には黄金に煌めく満月が見える。
「むぅ……綺麗な月だな」
俺はぼそっと呟いた。こんな所で戦うよりも月を見上げてまったりしてる方が良い。が、勿論そんな訳にもいかないのでゼクロムが月に見惚れている隙に首に噛みついた。
「ぎゃあ!! て、てめえ! 降りてから勝負開始じゃねえのかよ!?」
「んなもん知るか! てめえが降ろさねえのがいけねえんだろ!」
くっきりとした歯形を残し、別の場所に噛みつく。口の中に鉄臭い味が広がる。
この味、俺的には嫌いじゃない。小さい頃、膝や腕を擦りむいた時には流れた血をよく舐めていたものだ。
「クロス……サンダァァー!!」
ゼクロムの体から眩い光が放たれた。俺は目が眩み、思わず手を離してしまった。
「くははは!! 貴様はレシラムのクロスフレイムを耐え抜いたそうだが、俺のクロスサンダーはどうかな!」
蒼い光を纏ったゼクロムが突っ込んできた。横に跳んで躱す。
──大丈夫。レシラムよりも速度は速くない。集中すれば躱し続けられる。
二度目の突進。
「放電」
冷ややかな声の直後、避けたはずなのに、クロスサンダーが直撃した。
「避けれると思ったろうが、見た目だけで判断しちゃあいけねえ」
「ふん、次はこっちの番だ!」
リミッターを解き、《氷雪剣》をだす。と、同時に《雷槍》を創って投げる。
「くわっ!?」
怯んだのを確認するが早いか、剣を片手にゼクロムにダッシュする。
「喰らえ!」
奴の頭部にある角を切り落とそうとした。角に触れた瞬間、何百万ボルトまの電気が体を駆け巡ったような気がした。
「甘いな!」
落下した俺をゼクロムは尻尾を振って、弾き飛ばした。
「わあああああ!!」
塔のはじっこの方までスリップしていき、危うく落ちるところだった。
「はあ……はあ……。こいつと戦うの楽しいぜ……」
こめかみ辺りから流れ、頬を伝う血を拭いながら言った。
〜☆★☆★〜
―ツヨイネ飛空艇―
「……あれ、イーブイ? おーい! どこ行ったんだー?」
どうせもう眠れないし、イーブイと喋っていようと思い、操縦席を出向いた。が、そこに彼の姿は無かった。
寝ているのだろうか? いや、そんなことはないはずだ。
何故ならば、彼は島から出るやいな直様操縦席に飛び付いたのだから。
英雄の島脱出して直だが新たな胸騒ぎがエルを悩ませる。