27話 もう一人の味方
「いくぜ!」
右手に持った《氷雪剣》を首に叩きつける。斬った、という感触はあったのだが──全く斬れていなかった。
「あら? 首が切れなくて吃驚した? そりゃそうよ、私達ポケモンの中で最も硬い部位は首だもの。何故かと言うと、ほら、私達バトル沢山するじゃない?」
べらべら喋りながらも、俺達の猛攻撃を捌く。
「それで直に首が折れちゃったら駄目じゃない。だから首が一番強固に作られてるのよ。もちろん、貴方とて例外じゃないわ。でも、何度も首を叩かれればいずれは折れるわ」
「悠長に話してる暇はあるのかい!?」
ブラッキーの《三日月刀》がレシラムの肩に深々と食い込んだ。
「お前ら! 殺す必要はない! だから、足と翼を重点的に狙うんだ!」
「了解!」
アブソルの辻斬りがレシラムの白い翼を引き裂いた。どっ、と血が流れる。次いでブラッキーの刀が彼女の左足を切り刻んだ。
「ぎゃあああ!! 痛い痛い痛いいい!! ……もう許して……帰っていいから……」
ずっと耐えていたのだろう。今日の昼、俺が大量の《水弓》を撃ち込んでいたときから。三対一、二匹追加されるだけで、こんなにも戦況が変わるなんて。
レシラムは地に伏し、泣き叫んでいる。
「どうする?」
ブラッキーが俺達に尋ねる。
「私は……虐めは好きじゃないな」
「俺もパス」
「なら、帰ろうか」
俺達が後ろを向いた、その時だった。
ゴゴゴゴ……と背後から凄まじい音が訊こえる。更に、今の季節は秋だというのに真夏よりも暑くなってきている。
「クロスフレイム!」
「──!?」
振り返ると、レシラムが頭上に1m程の火の玉を掲げている。
「な、何で! さっき倒したろ!」
「女は女優って言うでしょ?」
レシラムは巨大な火の玉を俺らに投げた。火球は見た目よりも速い速度で飛んでくる。完全に虚を突かれたが、俺達は持ち前の反射神経を生かして、直撃は免れた。
俺達の頭上を通過したクロスフレイムは後ろにあった木々を焼き付くした。その火は周りの木にも燃え移り、英雄の島は大火事となった。そして、レシラムは飛び立ち、空から俺達を攻撃し始めた。
「マジか……」
〜☆★☆★〜
──時同じくして船で眠っていたエルは……。
ドカ───ン!
「──!?」
とてつもない衝撃音。ベッドから飛び降り、甲板へに出る。
「今の音で起きたの僕だけかよ」
溜息をつきつつ音の発生源を探す──必要はなかった。島がオレンジ色の炎に包まれているではないか。
「イーブイ!!」
エルはイーブイを捜しに島へ降りた。
木々の燃えている森を風の如く疾駆する。走ること約二十秒、発火の中心部に辿り着く。
「え、エル!」
そこに、彼、元い彼らは居た。白い龍と戦っていた。
「何でこんな派手なバトル繰り広げてるんだ!?」
「そ、それは、後で説明する──うわっと!」
「何でアブソルとブラッキーも居るの!?」
「それは、僕らがイーブイを助けに来たからさ!」
「それとその刀は何!」
「後で!!」
ブラッキーは刀を水平に振り火の玉を一刀両断する。
「これじゃキリがないわ! 何とかしてあいつを地上に引きずり落とさなくちゃ!」
「僕に任せて!」
エルが前に飛び出し、クロスフレイムを真正面で受ける体勢になっている。
「《空間回廊》!」
クロスフレイムとほぼ同じサイズの回廊は無理矢理火を呑み込み、レシラムの真上に吐き出した。
「きゃああ!!」
自分の技を脳天に喰らった彼女は、一瞬ふらつき、そのまま地面に落ち、気絶した。
「よっしゃ!」
「いや〜エル、流石だよ!」
「いやあ、半分賭けみたいなもんだったよ。あの回廊、僕の力量だと一mが限界だし。そんなことより君の刀は何?」
「あれは──」
「おい、呑気に話してないで行くぞ。目を覚まして追っかけられたら困るぜ」
「仕方ない。歩きながら話そう」
エルとブラッキーは先を行くイーブイとアブソルを追いかけた。
「や、やった! 飛空艇が見えた!」
一番最初にイーブイが飛び乗る。続いてアブソル。三番目にエル、最後がブラッキー。
イーブイは午前三時にも拘わらず女の子達の眠る女子部屋へと駆け込んだ。
「ミミロップ! ミミロップ! このいかれた島からとっとと出ようぜ! 早く!!」
ミミロップの肩を掴み、ぐわんぐわん揺らす。
「……何よ。こんな真夜中に……」
「早くこの島から出るんだよ!」
「操縦の仕方は操縦席の椅子の横にあるマニュアル見て。私は眠いから……」
そう言うとミミロップは寝返りをうった。
「はあ……」
イーブイは操縦席に座り真剣な表情でマニュアルを読み始めた。
「何でマニュアルなんかあるんだよ。こんなの書くぐらいならオート操縦機能つけろよな」
ぶつぶつ文句を言いつつも舵をとる。
「下にあるペダルの右側がアクセルで左がブレーキ。なら右だな」
ぐっ、とアクセル踏み込む。
「よし! 脱出だ!」