26話 本当の脱出
「はあー……」
俺は洞窟に戻された後、最初の檻よりも、もっと隙間が狭い檻に入れられた。
壊さない限り、脱出は不可能になった。
「はあ……」
再び溜息。随分と時間がたち、今は夜。時刻は午後七時。
出発時には「直帰る」と言ったのに。これでは帰るにも帰れない。
何か、何かきっかけさえあれば……。そう願ってみるが、何も起こらない。
「ふう……」
三度目の溜息。俺は十四年間の人生の中で初めて絶望した。
「ご飯食べる?」
レシラムに訊かれる。答える気にもなれず、ただ首を横に振るだけにした。
することも無くなったので目を瞑っていたら、いつの間にか寝ていた。
〜☆★☆★〜
──一方、ツヨイネの船では。
「……イーブイ、遅いね」
アブソルが島の森を見つめながら呟く。
「じゃあ、僕らで確かめに行くかい? イーブイが何をしてるのか」
ブラッキーが言った。アブソルはこくり、と頷いた。
「もし、捕まってたりしたら敵に見つかっちゃうよ。だから夜中まで待とう」
「そうだね。僕は黒いから闇に紛れられるけど……君は……大丈夫かな?」
「夜中だし大丈夫だよ、きっと!」
アブソルは笑顔で答えた。
〜☆★☆★〜
「…………んむぅ……」
ゆっくりと体を起こす。
「ふわああぁ……」
欠伸をする。
あれは、きっと夢だったんだ……。周りを見れば、ほら、皆が寝てるはすだよ。
目を擦って、きょろきょろと周りを見渡す。
無機質な壁、寝息をたてて眠るレシラム。
状況は何一つ変わっていない。
がさがさがさがさ……
ピクリ、と耳を動かし、音の鳴った方向を見る。きらり、と金色の輪が煌めいた──気がした。
「……?」
その音はどんどん大きくなる。これ以上大きな音が鳴ったら、レシラムが起きてしまう。
誰かが手を振っている。白い体毛に黒い角。その隣には赤い目玉と六個の光る輪。
もしや──アブソルとブラッキー……?
彼らは静かに近づいてくる。檻の真下まで来るとアブソルはブラッキーを投げ、檻の柵に掴まらせた。
「ブラッキー!」
「鍵をぶっ壊してさっさと逃げるよ」
爪を鍵穴に突っ込み、ピッキングを開始する。ガチャガチャという耳障りな音でレシラムが目を覚ますのは時間の問題だろう。
「まだなの!?」
「あと……もう少し……!」
「……ふわああぁ! 何か五月蝿いわね……」
ぎろりと、ブラッキー達を睨んだ。
「ッ……! 私が止めておくから、早く解錠して!」
「わ、解った!」
「無理だ! 勝てない!」
「やってみなきゃ分からないじゃない!」
アブソルは《限界突破》を発動させた。
「これが私の……初めてのメガ進化!」
首から下げていたメガストーンが淡いピンク色の光を放った。その光は次第に強くなり、アブソルを包み込んだ。
「はあああああッ!!」
「……メガ進化、ね。厄介だわぁ。さっさと終わらせましょ」
レシラムは欠伸と共に火炎放射を吐き出す。アブソルは難なく避け、サイコカッターを飛ばす。
「ブラッキー! 早く!」
「五月蝿なー! 僕だって頑張ってるの!」
ブラッキーの額に汗が滲み出てきた。相当、焦っているようだ。
「だあぁあ!! もう嫌だ! イーブイ! 後ろに下がってて!」
言われるがままに下がる。ブラッキーは空中で手を一回転させると、月のように目映い剣を創り出した。
「何それ?」
「《三日月刀》。刀身が月の如く輝いてるからそう名付けた。因みに、月が出てる時の方が威力は高くなるよ……。って! 時間無いのに解説させないでよ!」
「そっちが勝手にしたんだろ!」
「あああ! 悪かったね!」
叫びつつ、切る。檻は真っ二つに裂け、俺とブラッキーは地面に着地した。
「助けはいるかーい?」
アブソルに訊く。
「当たり前でしょ!!」
俺はブラッキーと顔を見合せ、ニヤッと笑った。
「いこうか。俺は、あいつに色々借りがあるからな。きっちり返してやんぜ」
歯を剥き出して笑うと同時に馴染み深い《氷雪剣》と《草剣》を創る。草双剣じゃない理由としては、単に通常二本のところを一本にしてるから、というだけ。
「さあ、ぼっこぼこにしてやるぜ」