24話 白い母親
【英雄の島】──それは、円形の島で、自然豊かな島だ。だが、ポケモンが一匹も見つからない。島の縁に船を止め、ミーティングを開始する。
「皆、訊いてくれ。今回、英雄の島に探検に行くのは俺だけだ」
言った瞬間、不満の声が上がる。中には「連れてってー!」と叫ぶ者も居る。
が、ロコンが野獣化したのは俺のせいだから、これは俺一匹で行かなきゃ意味がないのだ──と思う。
「すぐ帰ってくるからさ! 行ってくる!」
皆の意見を振り切り、鞄を引っ付かんで、島に降りた。そして、本を開き、そこから『モドリ草』が無いか探す──が、見つからない。
「奥の方にあるのか?」
生い茂る木々の間を通り抜け、少し開けた場所に出た。
目の前には巨大な洞窟。そして、その上は丘のようになっていた。そこには、本の挿絵にあった草──つまり、『モドリ草』が生えていた。内心ガッツポーズをとり、意気揚々と草を摘みに行く。
びゅお、と強い風が吹いた。風はだんだんと強くなってくる。
「…………」
不安を胸に抱えた俺は、急いで帰ろうとしたが、目の前に白い龍が俺を見下ろしていた。
「……」
無言で俺を見つめてくる。俺はモドリ草を鞄にしまって、龍を睨み付ける。
島には恐ろしい英雄が待ち構えているので注意されたし。
本に書かれていた文章が頭の中に浮き上がってくる。恐ろしい英雄……。眼前のこいつからはそんな雰囲気は感じ取れない。しかし、油断は禁物だ。
突然の攻撃に、俺は虚をつかれた。相手は手を伸ばして俺を捕まえようとする。
「くっ!」
横に転がって回避する。
「中々やるわね。私の初撃を避けられる奴はそうそういないわ」
言いながらも、俺を掴もうとしてくる。素早い両手の動きは、一瞬でも気を抜いたら即捕まる。しかし、躱した先に、もう片方の手が迫ってきていた。
「ほぉら、捕まえたー」
「ッ……。お、俺をどうするつもりだ!」
「そうねえ……君は鍛えればもっと強くなれそうだから私の養子にするわ。私はレシラム。よろしくね!」
「断る! 俺はやることがあるんだ! だから離してくれ!」
「……嫌よ。まあ、少しいればそんなことも忘れるわ」
洞窟の中に連れていかれ、天井からぶら下がった檻に入れられる。
「おい! 子供を監禁する母親なんか訊いたことねえぞ!」
がしゃがしゃ檻を揺らすが、ただ、音が壁に反響して返ってくるだけだった。
「私達と暮らすって決めたのなら出してあげるわよ」
「ふん、何度言っても答えは変わらないぜ!」
「好きになさい。私のイーブイ」
ぷいっとそっぽを向くと、レシラムはその場に座り込んだ。
「……何で名前を当てられたんだ?」
小声で呟きながら本を開いた。何か、脱出に役立つページが無いか必死に捲る。
「レシラム……レシラム……。ん、あった」
レシラムの情報が載っているページを食い入るように読む。
レシラムとは、スカイランドの守り神の一角である。カプ系よりも地位は上。
既婚者であり夫はぜクロム。
戦場においてはぜクロムよりも弱い彼女だが、家庭内であれば形勢が逆転する。
更に、伝説のポケモンのため、子供ができない。なので、住処に足を踏み入れた少年少女、青年淑女は養子にされてしまうことがあるので気を付けよ。
ついでだが、捕まった時は檻に入れられるだろうが、逃げるチャンスはいくつもある。例えば、養子になると嘘をつき、隙を見て逃げ出すなどだ。
だが、彼女の走る──というより飛行速度は飛べるポケモンの中で一、二を争う程なので注意すべし。
「やってみるか……」
小さく息を吐き、レシラムに話しかける。
「れ、レシラム。俺、あんたの養子になるから降ろしてくれよ」
「…………」
疑いの眼差しを向けてくる。心を見透かされているようで不安になる。
焦るな、焦るな、と自分に言い訊かせる。
「……本当みたいね。いいわよ降りてらっしゃい」
ドアが開き、俺は床に降りる。
ここからが勝負だ。いつ、どのタイミングで走り出すかが重要だ。