22話 とても貴重な本
「……ルカリオ。私はもう、何も言わない。後は自分の好きなように過ごしなさい」
「ウォッカ……いや、父さん。ありがとう」
「私には礼を言われる筋合いはない。一度、お前を捨てたんだからな。あと、お前【空の架け橋】にグローブがあったろ。どこにやった?」
「ああ、あれは自分の部屋にあるよ」
「い、家に置いてきたのか!?」
「いや、船の方の」
「何だ……脅かさないでくれ……。あれはな《流星グローブ》といってな、装備した者は如何なる状態異常にかからなくなる。それに付け加え、パンチの速度が飛躍的に上がる代物だ。空の四神器の中で一番強いだろうな。だから、大事にするんだぞ」
「うん。解った」
「でも、何でルカリオは着けないんだ?」
「それは──あれ、着けてると蒸れるんだよね。それが嫌でさあ」
ははは、と誤魔化し笑いをする。ウォッカと俺はやれやれと溜息をついた。
「ルカリオ、俺はもう一度寝る。だから、父親と好きなだけ話な。アシレーヌが泊まってけって言ったのはウォッカが頼んだんだろ?」
「ふん、まあな。だが……ありがとう」
礼を言ったのはウォッカだった。少々面食らったが、俺は彼らに背を向けながら手を振った。
「さて、寝る──?」
欠伸をして、天涯付きのベッドに飛び込もうとしたが、掛け布団が少し膨らんでいるのに気がついた。掛け布団を剥がすと、そこには静かな寝息をたてるロコンが居た。
「…………」
絶句。一体、いつの間に入り込んだのだろう? もしかすると、最初から?
起き上がった時、微かに背中が温かかった──気がした。
「どうしたもんかねぇ……」
短い溜息を付き、隣のベッドで寝ていたエルを更にその隣で寝ているエーフィ姉ちゃんのベッドに移動させる。
「完璧だぜ」
空いたベッドに飛び込み、布団を被る。数十秒後、俺は夢の世界へダイブしていた。
〜☆★☆★〜
「ふわぁあああ……。良く寝たぜ……」
現在時刻は午前十時。
のそりと起き上がると、俺の隣が仄かに温かい。ちらりと見ると──。
「うぎゃあああああ!!」
俺のすっとんきょうな悲鳴を訊きつけて、皆が走ってきた。
「な、何!?」
「お、俺の隣に、ろ、ロコンが!」
「それがどうしたのよ」
師匠は心配そうな表情から一変し、呆れたという顔を俺に向け、溜息をついた。
「だ、だって! 昨日はベッド占領されてたからエルをエーフィ姉ちゃんの所に移動させて俺はそこに寝たんだぞ! 何で、ロコンが隣に居るんだよ!?」
「私が起きた時、ロコンちゃんがお兄ちゃんのベッドに移動してたよ」
リーフィアが答えた。
「きゅぁ〜〜……」
小さな欠伸とともにロコンが目を覚ました。ぽけーっ、とした眼差しで俺らを見る。
「キュ」
すとんと床に降り、伸びをした。
「あ、話変えるけど、ルミナが飯だって呼んでたぜ」
サンダース兄ちゃんが言うと、俺とロコンを除く全員の目が輝いた。
「それと……早い者勝ちらしいぜ!」
言い終えると同時に兄ちゃんが走り出した。その後を、ミミロップ、エル、ゾロアークとついていった。リーフィアとニンフィアに至っては、蔓とリボンをブースター兄ちゃん、ブラッキーに巻き付けて運んでもらっている。
ぽつん、と取り残された俺達は顔を見合せ、置いてかれたことに苦笑しながら部屋を後にした。
道に迷いながらも何とか食堂に辿り着いた。その時にはもう、ほぼ全ての料理が皆の胃袋に収まっていた。
「…………」
たかが五分、さ迷っただけでこの有り様とは……。余程料理が美味しいのだろう、と思った。
「あら、おはよう」
「あ、どうも」
突然、王妃に挨拶され、吃驚する俺。すると、何だか分厚い本を手渡された。
「ッ、何ですか、これ?」
重みでよろけながらも質問する。
「これは……昨日徹夜して書庫で見つけた物です。そしてこの本にはスカイランドのありとあらゆる事が記されています。これを貴方に託す理由、解りますか?」
「ロコンを……治せと」
アシレーヌ王妃は答える代わりに頷いた。俺も頷き返し、ページを捲る。ぱらぱらと捲っていると気になる箇所を見つけた。
『モドリ草』──どんな状態異常も完治する、不思議な草。ただし、この草は【英雄の島】のみに自生する。島には恐ろしい英雄が待ち構えているので注意されたし。
「決まりだ。次の目的地は【英雄の島】だ」
「頑張るんだよ」
ぼそりと呟いた俺を励ますようにアシレーヌ王妃が耳元で囁いた。