21話 ルカリオの生い立ち
「取り敢えず……城に戻ろうよ」
サタンが消えた後、暫し呆然としていた俺達。それから5分後、アブソルが口を開いた。
「何で……ロコンはサタンに攻撃しなかったんだろ……?」
「僕とルカリオが初めに勝負を挑んだ時は襲いかかってきたけど、君が連れて帰ってきた時には誰も攻撃しなかったから、敵意を向けられない限りはおとなしいんじゃないかな? だから殺しにかかってきたルージュラは逆に殺されたんじゃない?」
「あ〜、成る程ね」
うんうんと頷く。
「ギュー」
「ぎゃッ!」
急にエルが飛び上がった。尻尾にロコンが噛みついているではないか。
「こら、離しなさい」
ロコンを引き剥がし、俺の隣に置いた。
「キュー!」
しかし、ロコンはやめようとはせず、エルを追いかけ回す。
「うわわわわっ!」
「キュー……」
エルが離れると、今度は俺に寄り添ってきた。
「……何でかな?」
「それはあんたを主人として認めたからじゃないの」
小首を傾げていると師匠が隣を歩きにきた。
「どういう事?」
「野生の本能ってやつかしらね。ロコンはあんたに負け、力関係を理解した。つまり、あんたに従うようになったのよ」
「ほんとぉ?」
「じゃあ、何か命令してみたら?」
「んー、ロコン、ブースター兄ちゃんに噛みついてこい」
そう言うと、ロコンは嬉しそうに一鳴きして、ブースター兄ちゃんを噛みに行った。
「いっでえええ!!」
数秒後、兄ちゃんの悲鳴がそこら中に響いた。戻ってきたロコンは、それはそれは得意気な表情だった。まるで、ご主人様! やりましたよ! とでも言いたげだ。
「うん、確かにそうだ」
ロコンの頭を撫でながら言う。
「お、そろそろ城が見えてきたな。おーい! エルー! 《空間回廊》をあの階段まで開いてー!」
城の入口を指差しながら伝える。
「了解ー」
エルは円形の穴を開くと同時に中に飛び込んだ。それに続いて、皆入っていく。
―ヤハント城―
「あ、お帰り」
ルミナが救急箱を持ちながら言った。
「ジャノビーの様子はどうだい?」
ブラッキーが訊いた。
「うん! だいぶ良くなってきてるよ」
「そう……良かった」
皆がほっと、安堵の息を漏らす。
「あ、母さんが呼んでたよ」
「ああ、わかった」
玉座の間の扉を押し開け、王、王妃に挨拶する。
「よく帰ってきました。さて、早速ですが……今日は泊まっていきなさい」
「え?」
思わず訊き返してしまった。
「だから泊まっていきなさいと言っているのです」
「な、何で?」
「いいから王妃の言うことは訊きなさい!」
アシレーヌ王妃の目が妖しく光った。次の瞬間、俺は床に突っ伏して寝てしまったそうな。
「貴方達も強制的に眠らされたくなければ素直に泊まっていきなさい。ご馳走もありますよ」
「もっ、もちろん!!」
俺のことはそっちのけで、全員が『ご馳走』という言葉に魅いられてしまった。
次に俺が目を開けたのは皆が眠っている夜中の1時だった。
「くそぅ……アシレーヌめ。……ちゅーか、ここどこだよ」
頭をぽりぽり掻きながら辺りを見回した。
「……ん? 話し声?」
部屋のベランダからルカリオの話し声が訊こえる。こっそり近づき、盗み訊きしようとしたが寝起きのせいで満足に動くこともできずに壁に頭をぶつけてしまった。
「誰?」
穏やかな声。ルカリオがこちらを見ている。
「あ、イーブイ」
「よお、ルカリオ。誰と話してんだ?」
「私だ」
俺の問いに誰かが答えた。目を凝らしてみると──ウォッカだった。
「ッ! てめえ!」
反射的に《雷槍》をだす。
「ま、待って。今回、こいつは僕と話がしたいって言うから王妃様が許可をくれたんだってさ。だから、一応悪いやつじゃないよ」
「父親にこいつとは何だ」
「10年以上息子をほったらかしといて、どの口が言ってんだよ」
「悪かったさ。母さんはお前を産んですぐに死んでしまった。残ったお前を男でひとつで育てていく自信がなかったんだ」
「ちょ、ちょっとまってよ! る、ルカリオってスカイランドのポケモンだったの!?」
「……うん。僕はウォッカに孤児院に預けられてから養子に行きたくなかったから逃げたんだ。で、ポケトピア行きの観光船に乗って下界に着いたんだ。当然、当時4歳だった僕は生きる術など知らずにさ迷っていたんだ。そこで出会ったのがユキメノコだったんだ。僕は彼女を本当の姉のように慕っていたんだけど……ある日突然旅に出ちゃったっていう話は前に話したよね」
「あー……うん、されたされた」
「で、僕はユキメノコに生きるのに必要なこと全てを学んだから今まで生きてこれたんだよ。そして、君に出会って、こうして探検家になったのさ」
俺は……親友とも呼べる彼を──彼の生い立ちを全く知らなかった。
親に孤児院に入れられ、逃げ出し、わずか5歳にして生きる術を身に付けるなんて……。
俺はたった今、彼の真の友達になれた気がする。