17話 男の戦い
ジャノビーの一方的な攻撃に、ジュナイパーはなすすべなく後退していっている。
「オラオラッ! そんなんじゃ俺には勝てねえぞ!」
《草双剣》をクロスして切る。ジュナイパーの翼が裂け、そこから血が吹き出した。
「終いか? つまらねえな」
尻餅をついているジュナイパーを見下ろして吐き捨てるように言った。そして《草双剣》をしまった。
奴はジャノビーが剣を納めるのを待っていたようだ。
「ジャノビー! 剣をしまっちゃだめだ!」
「は?」
ブラッキーの忠告も虚しく、ジャノビーは攻撃を受けた。
まさに、形勢逆転とはこのことだろう。先程までは防戦一方だったジュナイパーは羽を巧みに使い、ジャノビーを圧倒する。
「我が一族に伝わる奥義、見せてやろう! シャドーアローズストライク!」
ジュナイパーの首に下げられていた宝石が輝き始めた。その輝きはどんどん強くなっていく。
「いくぞ……貴様を殺し、ルミナは貰っていく!」
ばっ、とジュナイパーが羽を広げた。その中から、無数の紫色の矢が出現した。
「ぐああああ!!」
ジャノビーの体の至るところに矢が撃ち込まれていく。漸く収まった頃、彼はぼろぼろだった。
「ぐっ……」
「さっきの威勢のよさはどこへいった?」
「もう見てられないよ! 僕が行く!」
エルが飛び出したが、俺が制止をかけた。
「な、何するんだ!?」
「行くな。これは……あいつの戦いだ。俺だって、助けにいきたいさ」
「じゃあ何で!」
「雄同士が1匹の雌のために争う。そこに第3者が入ったらだめだ。俺はそう思う」
「……確かに。分かった。僕、手を出さない」
「それがいい」
エルとの会話を終わらせ、再び、戦いの行く末を見守る。
「俺の勝ちだな。ルミナは貰っていく」
勝負あり、誰もがそう思う状況だった。だが、床に倒れたジャノビーは最後の力を振り絞り、ジュナイパーの足を掴んだ。
「……触るな。汚れるだろう」
「俺は……俺は負けねえッ!」
足を握る腕に更に力がこもる。ジュナイパーの足はみしみしと嫌な音をたて始めた。
「折れろッ!」
ボギイッ! という不快な音声が部屋に響いた。
「うぎゃあああああ!!」
おかしな方向に曲がった足を押さえ、転げ回る。
「はあ……はあ……俺の……勝ちだ」
ふらつく足で立ち上がり、ジュナイパーにほくそ笑む。
「あ、限界だわ……」
ジャノビーはどさりとその場に崩れ落ちた。やりきった、という顔で。
「……気絶してるよ。どっかにベッドとかない?」
ルカリオがジャノビーを持ち上げ、きょろきょろ見回す。
「あ、医務室があるよ!」
走りだしたルミナの後をルカリオは駆け足で追いかけた。
「さて……ジュナイパー。月の国の王子がこのような所で何をしているのかな?」
「俺はルミナが好きなんだ。だから! 俺の物にするために──」
「たわけ者!! 貴殿は己の欲望のためなら誰彼構わず傷つけるというのか!」
ジュナイパーの発言を遮りラグラージ王が怒鳴った。
「今後一切のこの国への侵入は禁ずる! もしも入国した場合は直ちに射殺する!」
「そ、そんなことしたら親父が黙っちゃいないぜ」
勝った、とでも言うかのようにせせら笑った。
「安心したまえ。貴殿の父上に手紙を書いておいたからの。アシレーヌ、書けたかの?」
「ええ、あなた」
アシレーヌ王妃は小さな羊皮紙をラグラージ王に渡した。
「ありがとう。この者と手紙を樽に放り込み月の国へ送り返せ!」
王が叫ぶとどこからともなく沢山の兵士が集まりジュナイパーと手紙を連れ去った。
「やれやれ……すまなかった客人よ」
「いえ、ああいうの慣れてるんで」
俺は素っ気なく返した。
「ね、私お腹すいた」
ロコンが俺の耳元で囁き、バッグを漁り始めた。
「ちょ! 待てッ! 止めろ!」
「あ! 美味しそうな木の実発見! いただきまーす!」
──最悪だ……
なんとロコンが食べたのは野獣の実だった。どんな効果がでるかわかったもんじゃない。