7話 見渡す限りの蒼い空
翌日、俺達はミミロップの部屋に集まった。隣に立っているエルはちょっと窶れたような気がする。
一体、昨日は姉ちゃんの部屋で何をしていたのか? 俺に訊く勇気は無かった。
余談だが、現在ジャノビーとは一緒に住んでいる。使用している部屋は、以前、ツタージャとクチートの使っていた場所だ。模様替えは確りとされていて、昔の面影は一切なくなっている。
「準備はいいか?」
俺の問いに皆は頷いてくれた。それを確認した俺は飛空艇に乗り込んだ。しかし、俺はここで大きな問題にぶち当たった。
──どうやって外にだすんだ?
その答えは即座にミミロップがだしてくれた。
「イーブイ!飛空艇から降りて!」
「何で?」
「天井が開いて危ないから!」
上を見上げるとかなりのスピードで天井が迫ってくる。急いで飛空艇から飛び降り、方膝をついて床に着地する。
「いつの間にこんな改造を!?」
天井が開け放たれ、そこから清々しい程の青空が見えたが、ミミロップを除く全員が唖然とした表情をしている。
「この家に住むようになってから作り出した。完成したのは1ヶ月位前だったかな。それに動かすのはこれが初めてだし。いやー、成功してよかったよ」
ミミロップは豪快に笑い、両隣のルカリオと、師匠と無理矢理肩を組んだ。
「さあさあ、乗った乗った」
とミミロップが皆を促した。それに従い、俺達は乗船する。
「よーし! 出発だー!」
前回に引き続き、ミミロップが舵を取った。飛空艇が浮き上がり、どんどん浮上していく。徐々に速度も上がっていく。下を見ると家が小さな点程の大きさになっていった。
「どれくらいで着くんだろう?」
俺が師匠に訊くと悩んだ顔で答えた。
「雲を抜けたら……だと思う」
雲に差し掛かった瞬間、ボイラー室に設置してある飛行石が光始めた。だんだんと輝きは増していき、直視できない程になった。
突如、がたんと揺れ、俺は甲板を転がって船から落ちそうになった。
「うおっ!」
近くの手摺に掴まり、落ちないように立ち上がった。すると、顔を上げた直後、俺の目に飛び込んできたのは信じ難い光景だった。
ブラッキーがニンフィアに覆い被さるようになり唇と唇が重なっている。
──キスだ!
揺れによる不可抗力だったのだろうが、双子の兄と妹がキスする瞬間を目撃した俺は皆を呼びたかったがこのシーンから目が放せなくなってしまった。
「兄さん……」
「ニンフィア……」
2匹は頬を赤く染めて見詰め合っていた。俺は面白いから見ていたい、という欲を、離れるという意思を強く持ってその場からこっそり離れた。
「……見て良かったのか……?」
「何の話だ?」
ジャノビーが揺れを感じないかのように歩いて来た。
「ん、ちょっとね」
「言ってみろよ。俺、結構口固いからよ」
教えたら「えー!?」とか叫んで皆を呼び集めそうなので答えない。
「そんなことより、ほら! そろそろ雲を抜けるぜ!」
「お! ほんとだ!」
ジャノビーはまるで子供のように──いや、今も子供か。言い直そう。まるで幼児のように駆けて船の柵まで行った。
「ふう。危なかったぜ」
溜息をつき、空を見上げる。頭上には1欠片の雲もない。換わりに、燦々と照る太陽が姿を現した。
前を見れば蒼穹に浮かぶ空中都市が目に入った。取り敢えずは近くの村のような場所に着陸することにした。
「ミミロップ。あそこの村に降りてくれ」
村の入り口を指差して言う。
「はいよ」
ミミロップは舵を握って回転させた。機体は村に向かって傾き、その方向に進みだした。
約15分程度のフライトを楽しんだ俺達は村の入り口に立っている。門の前には看板が立ててあった。
「えーと、何々……『ここより先は太陽の国である。余所者ようこそ!』 歓迎されてんな」
読み上げたブースター兄ちゃんが苦笑しながら言った。
「兎に角、中に入らないことには何も変わらないしさ。行こうぜ」
先陣をきってサンダース兄ちゃんが村に足を踏み入れた。兄ちゃんに続いて俺達もぞろぞろとついて行く。
「……やけに五月蝿いわね」
ロコンが耳を塞ぎながら言った。彼女の言う通り、確かに五月蝿い。声援のようにも訊こえるし、野次のようにも訊いてとれる。
「村の真ん中辺りから訊こえるな」
エルがすたすたと村の中央へ歩いて行った。
「何やってるんだ?」
「?」
皆、我先にと押し寄せ、出遅れた俺はルカリオの肩に登って見る羽目になった。
飛行系のポケモンが紙切れを手にして沢山のポケモン逹に話しかけている。話を訊くべく村長、的なポケモンを探して辺りを見回した。
「ようこそ。村長のオーロットです」
急に背後に出現し、心停止するかと思うほど吃驚した。
「はじめまして。探検隊ツヨイネです。今は、何をしてるんですか?」
俺の質問に村長はにこやかに答えてくれた。
「レースの準備ですよ」
「レース?」
俺達に新たな疑問が増えたのだった。