12話 ゴールイン
レースが始まってまだ、半周だ。後ろの奴らは事故ったり技を受けて脱落したりと、既に参加者は半分をきっていた。
「いくぜ。フライゴン、感覚を研ぎ澄ませろ……《クイック》!」
突如、フライゴンは爆発的なスピードで直進した。
「うわああああ!! い、イーブイ!? どうなってるんだあああ!?」
驚いて叫びつつも的確に避けていく。そして、大抵の奴らを抜き去った後、フライゴンに言う。
「俺の技。ここいらで解除しますか。これやると結構疲れるんでね」
俺はフライゴンに笑いかける。
「ほら、あのムクホークを抜いたらチルタリスと一騎討ちだ!」
「うん!」
フライゴンは更に張り切り、スピードをMAXまで上げた。俺の耳元で風が唸る音と、翼のはためく音が訊こえる。
「じゃな」
すれ違い様に、ムクホークの乗り手であるエンペルトを《雷槍》で突き落とし、チルタリスに並ぶ。
「よお! 宣言通り勝ちに来たぜ!」
「……五月蝿いな」
チルタリスの乗り手が溜息混じりに呟いた。そいつは鉄製の兜と鎧を装備していて顔がわからない。
「誰お前?」
「チッ、馴れ馴れしいんだよ」
「あっそう、じゃあガチで落としにかかるわ」
《水弓》をだし、一気に矢を5本引き絞る。
「喰らえ!」
解き放った矢は一斉に乗り手に襲いかかった。キィン! という空気を断ち切るような鋭い金属音が辺り一面に響いた。乗り手の右手には剣が握られていた。
「チッ、鎧と兜が壊れちまったじゃねえか」
受けきれなかった矢は奴の鎧兜に刺さり、真っ2つに裂いた。
「素顔を見たな!」
「いいじゃん別に。減るもんじゃないしさ。そうだ、お互い顔も判ったことだし自己紹介でもしようぜ」
呑気に訊くと、剣の鋭利な切っ先を俺の鼻先に向けた。
「誰がてめえ何かと仲良しごっこするかよ」
「へえ、そう」
直後、チルタリスの背中に飛び乗り、鎧のついてない柔らかい腹に強烈な拳を叩き込んだ。
「がふっ……!」
相手は痛みに顔を歪め、呻き声をあげる。
「どお? 教える気になった?」
「誰が……」
拒否する言葉を訊いた瞬間、俺は更なる追撃を加えた。
「ぐふっ! 解った……言ってやるよ。俺はフォッコだ!」
「フォッコ、ね。よろしく」
「敵にそんな余裕を見せてる暇あるのか!?」
「当たり前じゃん」
垂直に切り上げられた剣をバク宙で回避し、フライゴンの背中に戻る。
「《エモーション》! あばよー!」
エモーションとは、喜怒哀楽のことだ。この技は使用者の性格によって効果が変わる。俺の場合は他人を喜ばせるのが好きなので、《喜》。
他にも好戦的、という点から《怒》も混じる。
「あれ? チルタリスが後ろの方にいるよ! 君の《クイック》の効果かい?」
「いや、《エモーション》だ。お前の素早さは最大限まで強化されてる。だから効果が切れる前にゴールしろ!」
「うん!」
だが、現実というのはそううまくいかない。必ず、大事な局面で邪魔が入る。
「チルタリス!」
フライゴンのスピードを強化したにも関わらず、彼女は恐ろしい形相で追随してきた。
「後ちょっとなのに!」
俺はフォッコに飛びかかる。振り下ろされた剣を躱し、腕を掴む。
「くっ! 離せ!」
「断る!」
剣をもぎ取り、大勢の観衆に投げつける。剣は観衆の頭を掠め、民家に突き刺さった。
「よくも俺の剣を!」
「お前は丸腰、俺はいくらでも武器を創れる。これでも歯向かう?」
「貴様には武士道というものが無いのか!」
「無いに決まってんじゃん。俺はただの探検家。しかも無茶苦茶強い。逆にお前は武士道とかいう変なのに従わなきゃならないただの馬鹿。勝ち目はあるかな?」
「火炎放射!」
フォッコの口から放たれた火は、俺が軽く首を倒しただけで避けることができた。
「終わりにしようか」
俺はフォッコの頭を掴み、島の周りを旋回している鳥ポケモン達に投げた。
フォッコはくるくる回りながら落ちていき、誰かにキャッチされた。
「よし、後はゴールするだけだ! 行け!」
フライゴンは今までの最高速度をだし、華麗にゴールした。
『優勝は……超がつくほどのどじっ子、フライゴンだああ!』
割れんばかりの歓声。その五月蝿さに島全体が微かに震えた。
「優勝商品はこれだよ。《太陽のペンダント》さ」
実況者から手渡された赤銅色の太陽型のペンダントを受け取った。
「更に! 副賞は《温泉旅行券 ペアチケット》だ!」
「フライゴン、ペンダントはくれ。代わりにチケットはやるよ。チルタリスにあげてこい」
俺はチケットを渡す。
「あ、ありがとう」
フライゴンは嬉しそうに受け取ると、嬉々としてチルタリスに話しかけに行った。
「優勝おめでとう」
肩を叩かれ、振り返ると、エルがいた。その後ろには皆が居た。
「簡単だったぜ」
俺は彼らにへへへ、と笑った。