11話 真の敵は……!
「もっと! もっとよ! もっと羽を細かく、且つ素早く動かすのよ!」
チルタリスの声が辺りに響く。フライゴンはそれに応えようと懸命に羽を動かし続ける。
「ぐ……うおおおおお!!」
「良くなってきてるわ! それじゃあ、ちょっと飛んでみましょうか。ちゃんと私に着いてくるのよ!」
「うん!」
チルタリスは7割の力で飛び立った。それにフライゴンは本気で着いていく。
俺は何をしているかと言うと、乗り手はバランス力が必要とされるようなので、柵の上などを歩いている。
予想以上に難しく、15分やって漸くコツを掴んできたところだ。
「そろそろだ……あいつらが見えてくるはずだ」
俺がフライゴン達の所に到着したのはそれから10分後のことだった。
「おーい! 修行は順調かぁー?」
柵から降り、小走りで手を振りながら叫ぶ。すると、フライゴンがOKのようなサインをだした。
「よしよし、じゃ、俺を乗せて飛んでみようぜ!」
「解った」
了承を得て、背中に飛び乗る。最初、ぐらついたがすぐに体勢を立て直し、安定した。
「俺のことは気にしなくていいから、本気で飛べよ」
「言われなくても!」
フライゴンが飛翔した。びゅう! と風の塊が俺の顔に吹き付けた。
「あははは! 最高だー!」
フライゴンはぐんぐんスピード上げていく。初めて会った時とは大違いだ。
今の彼は自信とやる気に満ちていた。
──いける! 今のこいつなら優勝も狙える!
「今、優勝間違いなしって顔したでしょ」
不意に話しかけられ、驚く。横を見るとチルタリスがぴったりとくっついて並走している。
「そうだけど? 文句ある?」
「別に。その心意気は良いけど私には勝てないわよ」
「は? お前も参加するのか?」
「当たり前じゃない」
「じゃ、じゃあ何で敵になる俺達を助けたんだよ!」
「だって、張り合いが無いとつまらないじゃない」
チルタリスは俺の目を真っ直ぐ見つめて、悪戯っぽく微笑んだ。その表情に俺は対抗心が湧いてきた。
「お前に絶対に勝つからな!」
「とか言って勝てた輩は0匹だよ」
チルタリスは俺を挑発するかのような口調で言った。
「因みに私、優勝経験13回だから。私が初めて出場した年からず──っと私が一番なのよ」
「じゃあ勝ったら僕と付き合ってよ!」
俺のパートナーであるフライゴンが口を挟んだ。きっと、ただの冗談だろう。
「私は私より強い者にしか興味がないからねえ……良いよ。勝ったら付き合ってあげよう。勝、て、た、ら! ね。バイバ〜イ。後は君達だけで頑張ってねー」
嫌みったらしく強調してチルタリスは去っていった。
「フライゴン……ぜってーあいつに勝とうな」
「勿論さ」
「悪いけど、チート級の技を使わせてもらうぜ! ふはははは!!」
俺は絶対にチルタリスの乗り手を蹴落としてやる、と自分の心に固く誓った。
それから6日後、レース当日となった。
沢山の観客のいる島の外周を見渡し、エル達がいないか確認する。
「おーい! イーブイ!」
声の聞こえた方を振り向くとエルやルカリオ、皆が手を振っていた。
「絶対に優勝するから見てろよな!」
「おう!」
ブースター兄ちゃんとサンダース兄ちゃんが巨大な旗を掲げた。
「何あれ?」
フライゴンが俺に囁く。旗には【勝たねえと殺す! ツヨイネ一同】と書かれている。
「ああ、多分1週間も無駄にしたんだから償えよ。できなかったら死刑な、って意味だと思う」
「怖っ! やばいよ君のお仲間は!」
「あれが普通だからな。ま、気にするこたあないぜ。どうせ優勝するんだから」
「だよね」
『レディースアーンドジェントルメーン!』
唐突な実況者のアナウンスに驚き、危うく落っこちそうになる。
『今日も良い天気ですねぇ! そんなことよりもレースを始めろって? オーケーオーケー! 出場者は位置について! よーい、ドン!』
遂にレースが始まった。フライゴンのスタートダッシュは成功したが、やはり上には上がいるものだ。
俺は、シャワーズ姉ちゃんの《水弓》を創り、矢を引き絞る。
狙いは前方にいる進路妨害してくる乗り手、ニャースだ。
「喰らえ!」
矢を放ち、ニャースの肩に命中させる。驚きと痛みの混じった声で叫びながら、飛び手のウォーグルの背中から落下し、失格となった。
「お前ならもっとスピード出せるはずだ! 行けッ!」
フライゴンを奮い起たせ、渇を入れる。
「確り掴まってっててよ!」
フライゴンは物凄い速度で敵の間をすり抜けていった。それは、針に糸を通すような正確さだった。
直後、俺らはトップ10に入るぐらい、前に来ていた。先頭はやはりチルタリス。あそこまでの距離はおよそ20m。
俺は、《チート級の技》を発動させることにした。これでトップとはいかなくとも、もっと前に行けるはずだ。