10話 乗り手の役目
「ふぁああ……」
翌日、目を覚ましたフライゴンはあのまま木陰で眠ってしまっことを思いだした。右隣で寝ているのは俺、では左隣のふわふわとした綿のような触感は何なのだろうか? 確かめるべく横を見るとそこには大好きなチルタリスがすーすー、と小さな寝息をたてていた。
「あ……」
フライゴンの脳内に昨日の俺の言葉が再生される。
『その子が何でもしてくれると思え』
「……駄目だ! 駄目だ! うああああああ!!!」
フライゴンはチルタリスに触れたい、という衝動を抑え込み、外に飛び出した。
「……うるせえな」
むくりと起き上がり機嫌最悪の俺は舌打ちして、悪態をつく。
すると、小さな欠伸と共にチルタリスが目を開けた。
「あれ? フライゴンは?」
「知るか。勝手に出てったわ」
俺は2日酔いの親父のような歩き方で台所に向う。そして、顔を洗い、歯を磨いた。俺の機嫌は少し良くなった気がする。
「飯、作るか」
昨日とは違い、雄2匹ではないので一応サラダも作る。そういえば昨日の肉は多分ミルタンクの物だろう。
ポケトピアで販売されている肉は【死刑囚】から剥ぎ取った肉である。しかし、この真実を知っているのはギルドの上層部と有名探検隊ぐらいだ。
気にならないかと言われたら、まあ、最初は抵抗があったがもう慣れた。
──いやあ、慣れって怖い怖い……
「何、にやにやしてんの?」
「いや……ちょっとね」
こいつはただの住人だろうから知らない筈だ。はぐらかし続ければどうにかなるだろう。
「……いや、ほんとに何でもないから」
「教えないと、訓練しない」
立場的に負け、仕方なく教えることになった。
「チッ、解ったよ。いいか、絶対誰にも言うなよ」
チルタリスはこくこくと首を縦に振った。
「いつも俺達が食ってる肉はな、実は死刑囚から取った物なんだ。この事実を知っているのは、ほんの一部だけだから内緒だぜ」
「ああ、何だそんなことだったの。私達皆知ってるわよ」
「え!?」
「本に書いてあるもの。『我々が食す肉類は全て死刑囚の肉である』ってね」
「ポケトピアが遅れてるだけなのか……」
「なあ、そろそろ飯ができるからフライゴン捜してきてよ。あ、ついでに何でチルタリスが居るかも説明しといて」
「解ったわ」
そう言うと、彼女は飛び立った。
──昨日はフライゴンが鼻血を出した後、チルタリスに本気の島1周を見せてもらった。そして俺はチルタリスにフライゴンの飛び方のコーチをしてもらうことにした。
初対面の相手に結構大胆だったと我ながら思う。2匹の会話を訊いていて彼らは仲が良いのだろうと考えた。だから、コーチを頼んだのだ。で、チルタリスは家がちょっと遠いらしく、帰るのが億劫だったそうなので勝手に泊まっていくことにしそうだ。
「ただいま」
ちょうど昨日のことを思いだしているとフライゴンとチルタリスが最中に帰ってきた。
「お帰り。飯できてるから食おうぜ」
食器やらなんやらをテーブルに運び、食事の支度をした。
「そういうことなら早く言っといてよ」
フライゴンはむすっとした表情で言った。
「悪い悪い」
「たく……」
朝食時は誰も喋らず、ただ、黙々と食べていた。
「さて、今日はチルタリスから速く飛ぶコツを教えてもらってくれ」
「よ、よろしく」
「ビシバシいくから覚悟しなさいよ」
「うん!」
彼らが頑張っている間、俺は乗り手として強くなるために誰かに訊きに行くことにした。
「あのー、レース参加者ですか?」
通りすがりのドッコラーに話しかける。すると、振り返ったので肩に担いでいた木材が俺の頭を掠めた。
「そうだけど」
「乗り手は何をすれば良いんですか?」
「おめえ……初めてか?」
「そうです」
「けっ! ライバルを増やすようなことしねえよ。他をあたりな」
──この野郎……引き裂いてミンチにしてやろうか! という考えを無理矢理呑み込み、親切であろう村長に会いに行くことにした。
村を歩き回ること10分。漸く村長を発見した。
「あ、村長」
「どうも。飛び手は見つかりましたか?」
「ええ」
「それは良かった。で、何のご用ですかな?」
村長は目を細めて笑った。
「えと、乗り手って何をすれば良いんですか?」
「乗り手は飛び手を妨害から守ったり逆に妨害したりするのです。乗り手が落ちたら失格となるのでお気をつけて」
「え? あのコースから落ちたら死にません?」
「心配要りませんぞ。参加しない飛行タイプが総出でキャッチします。まあ、過去に何匹かは落ちてきましたけど……」
「不安だ」
「大丈夫ですよ。下界の民は強いと訊いてますから」
「何で俺がポケトピアから来たって知ってるんですか?」
「飛空艇で来るのは下界の民だけですから。我々はゲートがありそこから別の島に移動するのですよ」
「ああ、成る程。どうもありがとうございました」
俺はぺこりと一礼して、村長の前を後にした。