8話 訓練開始!
「レースって何ですか?」
ルカリオがオーロットに訊く。
「このレースは古来より続けられてきた伝統あるものです。ルールは簡単で2匹組のペアで参加してもらいます。片方は飛べる者、もう片方はどんな方でも大丈夫です。開催は1週間後です。どうです? 参加してみませんか?」
「あー、お気持ちは嬉しいんだけど、このチームには飛べる奴が居なくて……」
俺は申し訳なさそうに言う。すると、オーロットは少し考えてから口を開いた。
「まだ村のどこかに契約を結んでないレーサーが居る筈ですので探してみてくだされ!」
「解りました。探してきます」
俺は1匹で探し始めた。いろんな奴に声をかけたが、どいつもこいつも、チームを組んでしまったそうだ。
「はあ……」
深い溜息をつきながらとぼとぼ歩いていたら誰かにぶつかった。
「いててて……悪かったな」
「こちらこそ、ご免なさい。乗り手が居なくて困ってたんですよ」
「急に語りだすな」
「あ、すいません。僕はフライゴンです」
「俺はイーブイ。そういやさっきお前、乗り手が居ないとか言ってたな」
「うん。僕は遅くてドジだから……」
「なら、俺が鍛えてやるよ。丁度飛び手が居なかったしな」
「本当に!?」
ぱっ、とフライゴンの顔が輝き、強烈なハグを喰らった。
「じゃあ、今日の夜から始めるから覚悟しとけよ」
「うん!」
フライゴンは嬉しそうに尻尾を振り回して行ってしまった。
──まて、あいつの家ってどこだ?
訊きそびれたことを後悔して俺はフライゴンの後を追った。
「おい、フライゴン」
「ん? あれ、何しに来たの?」
「お前ん家が解んないから来た」
「ここだよ」
フライゴンが俺を見下ろしながら前方を指した。
「あ、そう。もうここまで来たら皆の所帰るの面倒だ。たった今から早く飛ぶための訓練開始だ!」
「ええ!?」
「つべこべ言うな!」
「は、はいいッ!」
―第1の訓練―
「取り敢えずコースを教えてもらおうか」
俺はフライゴンの背中に乗りながら訊いた。
「島の周りを2周するんだよ。勿論、障害物があるからね」
「ほほう。じゃあ島の端まで行こうか」
「解った」
フライゴンはゆっくりと飛行した。遅いと言わざるをえない。
「もしかして……これが本気?」
「本気に近い」
大きく溜息をつき、沢山の訓練が必要だと悟った。
「ついたよ」
「じゃあ、本気で島を1周してこい」
俺は背中から降りて、命令する。フライゴンはこくりと頷いて、スタートした。
ストップウォッチが無くとも俺は時間を正確に計れる。現在時刻もはっきりと解るようになっている。
こんなことができるようになったのは時間操作能力が開花してからだ。
「遅い……」
その場に座り込んで待ち続けること6分37秒。更にそれから2分後、漸く奴が帰ってきた。
船から見た感じは島は大きくなかった筈だ。こんなに時間がかかるはずがない。
「タイムは?」
「8分37秒」
「ああ……やっぱり僕は才能無いんだ」
がっくりと肩を落とし、落ち込むフライゴンを励ますべく、俺は過去の話をしようと思った。
「フライゴン。俺は昔、異常な程に弱かった。一番下の妹にも勝てなかったくらいだ。でも、毎晩毎晩修行するうちに強くなった。それに師匠もできたし」
「それは君に才能があったからだろ?」
フライゴンは恨むように見た。俺はうじうじしたこいつを見ていたら無性に腹が立った。
「どんな天才も、努力をしなきゃそうはならなかった! お前は速く飛べるように練習したか!?」
「して……ない」
「お前に足りないのは努力だ! いいか? フライゴンっていう種族は飛行速度はめっぽう速い方なんだ」
「それがなんだよ」
「一度だけ俺はフライゴンのレーサーを見たことがある。そいつの目は自信に満ちていた。自分はできる! ってな。それと比べてお前はどうだ。『無理だよ』とかほざく前にやったらどうだ!? やってから無理だったって言え! 解ったか!?」
「……解った。努力する」
「よし、これからお前の家で飯を作る」
「え? もうご飯?」
「これぐらいから準備しないと食べる時には8時を過ぎます」
フライゴンは小さく頷き、再び俺を背に乗せた。そして、飛翔した。
「僕はできる。できる!」
行きとは打って変わって一段と速くなった。
──やっぱりこいつに足りないのは自信と努力だな。と、俺は確信した。
「フライゴン。俺の作る飯は多いぞ。残すなよ」
「うん! 頑張るよ!」
フライゴンはにっこり笑って答えた。その笑みに俺も自然と口角が上がった。