5話 メタ発言は控えめに
「お前……誰だ?」
俺は身構えながら訊いた。すると敵はゆっくりと口を開いた。
「私はウォッカ。ウォッカ中佐だ!」
ウォッカと名乗るルカリオはふんぞり返った。っていうか……ウォッカ中佐って──
「ラ○○タかよ!」
「酒かよ!」
意見が別れたのは15歳以上と15歳以下でだった。以上は酒の名前かと突っ込み、以下はラ○○タの方かと思っている。
「バ○ス!」
リーフィアとニンフィアが手を繋いで叫んだ。それを見た俺達は笑いを堪えられず吹き出した。
「私はム○カじゃないからバ○スも効かないし、酒でもない!」
怒りに顔を真っ赤にしたウォッカはやたらめったらに波導弾を連射してきた。各々できっちり避けていたが途中、シャワーズ姉ちゃんが躓き、波導弾の格好の的となってしまった。
しかし、緑色の閃光が波導弾を裂き、姉ちゃんを救った。
「ありがとう。ジャノビー」
「どういたしまして。礼を言う前に立てよ。また狙われるぞ」
「う、うん」
ウォッカの方を向いたジャノビーの手に何かが握られていることに気づいた。
「おい、ジャノビー。手に何を持ってんだ?」
「二刀流リーフブレード、改め《草双剣》」
「ははあ。リーフブレード2本ね。でも剣ならグレイシア姉ちゃんもだぜ」
ジャノビーが見ると、姉ちゃんはウィンクした。
「あ、そう」
ジャノビーは落ち込んで肩を落とした。
「そうがっかりするなよ。あ、ちょっと剣貸して」
「はい」
溜め息をついて渡された剣を、俺はまじまじと見つめた。
「ありがと」
剣を返し、俺はにっこりと笑った。
「ドンマイジャノビー……お前の技、コピーされたよ」
「え?」
サンダース兄ちゃんに言われたジャノビーは驚いて訊き返した。
「見てりゃ解るよ」
俺は両手に意識を集中させて、《草双剣》をそっくりに創った。
「ああ!」
俺が剣を持っているのを見てジャノビーは目を丸くした。それもその筈。そもそも『イーブイ』という種族は草タイプの技を覚えないのだから。
「どど、どういうことだ!?」
慌てるジャノビーに真実を教えるべく、ブラッキーがジャノビーを後ろの方に連れていき、説明を始めた。
「いいかい? イーブイには──」
真剣に話を訊くジャノビーは置いて俺はウォッカに剣先を向けた。
「お前、俺達に何のようだ?」
「ふん、私は飛行石が欲しいだけだ」
「やっぱム○カじゃねえか!」
「違う! とにかく! その石を渡してもらおうか!」
「断る!」
俺は地面を蹴り、ウォッカに突進した。《クイック》を発動し、更に加速する。この速度でウォッカに剣を刺せば、奴は即死だろう。
「おおおおお!!」
ウォッカとの距離は3mを切った。しかし、ウォッカの表情は焦りが1つも見えない。
「余裕ぶっこいてんじゃねえ!」
あと1m、というところでウォッカの右手が閃き、何かを創りだした。波導弾ではない何かを。
それは俺の額のど真ん中に向けられた。直感的にまずいと思い、急ブレーキをかけて、横に回避した。
激しい銃声が響き、俺は太股に激痛を感じた。
「あぐあッ!」
真っ赤な液体が足を伝って床に散った。足を押さえても止めどなく流れてくる血は確実に俺の命を削っていく。
「兄さん!」
ニンフィアが俺の足に自らのリボンを巻き付け、止血をするが、血は溢れ続け彼女のリボンを染めていく。
「イーブイ……時間を止めれば良いじゃないか」
エルの助言で俺は、何で気づかなかったんだ思ってにやっと笑った。
「《ストップ》」
患部に手を当て、今度こそ完璧な止血する。
「父さん……?」
ルカリオがウォッカに尋ねた。
「お前……」
ウォッカがサングラスを取り、ルカリオの顔を凝視する。長い沈黙の中、彼らだけが通じあっているようだ。
「ルカリオ……。お前なのか?」
「うん……そうだよ! 僕を……僕を孤児院に入れた糞親父!」
ルカリオは《波導棍》を創り、ウォッカに突っ込んでいった。
「五月蝿い!」
ウォッカが再び発砲した。ルカリオは波導棍を振り回し銃弾を弾き返していく。
「これで終わりだぁーー!!」
大上段に振りかぶった一撃。ウォッカの脳天に直撃し、奴は頭部に巨大なたん瘤を膨らませて崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……」
ルカリオは洗い呼吸で波導棍を杖に立っていた。
「リーフィア……こいつを縛っといて」
「あ、うん」
リーフィアがウォッカを縛り事態は一件落着した。
「いやはや、ルカリオは孤児院にいたのね」
ゾロアークが考え深げに頷いた。
「そうさ。僕は孤児だったのさ」
「あら? 孤児で何が悪いのよ。私は気にしないわよ」
「ゾロアーク……僕、僕何て言ったらいいか……」
「何も言わなくていいわよ」
ゾロアークが優しくルカリオを抱き締めた。
「あのー、盛り上がってるとこ悪いけど、この奥に部屋があるんだよね。行こうよ」
ドアの奥からシャワーズ姉ちゃんの声が聞こえた。俺達は姉ちゃんの後に続いた。